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「空」という字が嫌いだった。小学生の頃、どうしてもこの字を使いたくなくて平仮名で「そら」と書いたら、教師に「空くらい漢字で書きなさい」と馬鹿にされた。

同様に「陸」という字も嫌いだった。何の変哲もない、いたって平凡な、陸。地平線の向こうには何があるとか詩的なことを考えたこともなかったし、考えたくもなかった。地平線の向こうにはまた別の地平線がある、ただそれだけ。

僕にとって空というものは見上げるものでしかなかった。それは生まれた時から、今も変わらずに。ただ、今は人間も工夫を凝らせば空が飛べるということを知っている。

地平線の向こうには別の地平線があるだけ。だが、空の向こうだって、また別の空があるだけなのではないだろうか。僕ら人間も、鳥も、重力に縛られている無力な生き物という点では、何ら変わらないのではないだろうか。




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