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店の引き戸を開けると、生温い空気が僕の顔の皮膚を包み込んだ。僕はせっかく効いている暖房が逃げないように素早く引き戸を閉めた。

「おはようございます」

「おはようリッ君」

「どうしたんですかそれ」

僕が店の奥に進むとちょうど店長が段ボール箱のテープを剥がしたところで、僕はそれについて尋ねた。店に着く直前に宅配業者の車とすれ違ったので、今届いたばかりの荷物なのだろう。

「高校時代の友達が送ってきたやつでさ。リッ君もいる?」

箱の中にはつやつやしたオレンジ色のみかんがぱんぱんに詰まっていて、店長はそのうちの一つを僕に差し出した。

「みかん農家やってるんだって。食べ切れないからリッ君も持って帰ってよ」

「はあ……」

そう言うと店長は近くにあったコンビニ袋にみかんを詰めはじめた。たしかに、独り身にしては量が多いだろう。

僕はその場でみかんの皮を剥いてみた。途端に甘酸っぱい香りが広がる。おそらくこれは相当いいみかんだ。

店長に差し出されたコンビニ袋を受け取って思った。どうやら今日はかなり得をしたようだ。



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