16
夜十時過ぎ。足音が近づいてきたと思ったら、僕の部屋のドアが何の躊躇いもなく開いた。「ノックをしてください」と言うのももう馬鹿馬鹿しい。
「リッ君、今雪積もってるよ。帰れる?」
「雪ですか……。別に歩いて帰れない距離ではないんで」
今朝の天気予報では雪が降るとは言っていたが積もるとは言っていなかった。天気予報は最近の異常気象を正確に予測するのが難しくなってきている。
「送ろうか?」
「大丈夫です。それにもうすぐ田井中さんが来るんじゃないですか」
古くからの利用客の名前を出すと、店長は「そうだけどさ……」と呟いた。
「まぁ歩いて帰るなら今のうちの方がいいよ。これからまた降るってさっき天気予報で言ってたから」
僕はパソコン画面にちらりと目を向けたが、手にしていたファイルを閉じて「ならそうします」と答えた。もう少しで一段落つく所だったが、残りは帰ってからしよう。
荷物をまとめて店先に出ると、ちらちらと白い塊が待っていた。けっこう大粒の雪だ。これからどんどん強くなるだろうし、家につく頃には雪だるまになっているかもしれない。
カゴに荷物を乗せ自転車止めを蹴った僕の頭に、店から出てきた店長の手が延びた。何だろうと身構えた僕の両耳をふわふわとした感触が覆う。
「寒いからそれ使って」
店長は寒そうに袖から出た指先に息を吹きかけながらそう言った。どうしていい年した大人が耳あてなんてかわいらしい物持ってるんだ。
店長に見送られながら家までの道を進み出す。わざと雪の積もっている所を通ると、僕の後ろに足跡と二本の線がついた。明日学校に行くまでには溶けていればいいなあと、ぼんやりと思った。
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