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「あ、リッ君。おかえりー」

俯き気味に歩いていたら、名前を呼ばれ顔を上げる。二メートル程先に店長が立っていた。

「今学校終わったの?」

「はい。……というか、店長は何をしているんですか?」

「ちょっと駅まで行ってた」

「止めてくださいよ、店が無人になるじゃないですか」

うちの店は従業員が三人しかおらず、おまけにそのうち二人が学生なので、店に誰もいないタイミングというのはけっこう多い。今まで泥棒に入られたことはないが、それはこの辺がそこそこ田舎だからだろうか。

「そういえば朝お客さん来たよ。リッ君がやりたがると思って放置しといた」

「ありがとうございます。店長が片付けてくれていたらもっと嬉しかったんですけどね」

店までの道を並んで歩く。駅に用があったということは、遠くまで外出していたのだろうか。正直、店長の外出が仕事なのか友人に会いに行っているのか判別がつかない時がまだたまにある。

「今日は雅美ちゃん一時間早く来れるって」

「そうですか」

「今朝の依頼素行調査だからさ、後で雅美ちゃんに回しといて」

僕はそれに「はい」と返事をした。店の古びた看板が見えてくると、気分が少し高まる。ようやく今日が始まるような、そんな気がした。



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