14
夜十一時少し過ぎ。僕は通り過ぎようとした薬局の前で自転車にブレーキをかけた。確かシャンプーがきれていたはずだ。買って帰らなければ。
駐輪場に自転車を停め店内に入る。この薬局は夜十二時までやっているし、帰り道の途中にあるので便利だと思う。僕はシャンプーと飲み物とパンをカゴに入れてレジに並んだ。会計はあっという間に終わる。
レジ袋を右手にぶら下げながら自動ドアをくぐる。その時、前からやって来た人とぶつかりそうになった。
「すみませんっ」
よほど急いでいたのか店に駆け込もうとしたその人物は、僕を紙一重でかわすと咄嗟に謝った。僕はそれに一言返事をしようとして、その人物が顔見知りであることに気づく。だが相手の名前を口にしたのは彼女の方が早かった。
「あれっ!?瀬川君?」
荒木さんは自動ドアを一歩踏み込んだところで慌てて振り返る。
「こんな時間にどうしたの?」
「お母さんが突然熱出しちゃって。冷えピタが家になかったから買いに来たんだ」
僕は荒木さんの家のだいたいの位置を思い浮かべた。確かに彼女の家からはこの薬局が一番近い。
「瀬川君は今帰り?お疲れ様」
出くわしたからには何か話してからでないと別れられないと思ったのか、荒木さんはそう続けた。だが彼女は早く家に帰ってあげた方がいいだろう。家で母親が待っているんじゃないかと指摘すると、荒木さんは簡単に別れの言葉を告げて店の中へ駆けて行った。
荒木さんがいなくなると目の前の自動ドアがゆっくりとしまった。もう少し踏み込んだ位置にいればセンサーは僕の存在を感知していただろうか。僕は右手のレジ袋を握り直すとさっさと駐輪場まで向かった。明日も学校があるし、寝る前に片付けたい仕事もある。さっさと家に帰ろう。
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