学校帰り、店の近くのコンビニでコーヒーと仕事中に食べるチョコレート菓子を選んでいると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。

「あら、瀬川さん。今から仕事ですの?」

振り返ると、パック入りの紅茶を手にした花音さんが立っていた。彼女も学校帰りなのだろう、制服姿だった。

「こんなところで何してるの」

「朱雀店に行ったら蓮太郎さんがいなかったので帰って来たのですわ。雅美さんも来てませんし」

予想通りの答えに僕は「そう」と呟いた。ということは、今店は無人ではないか。何せうちの店は僕を含めて従業員が三人しかいないのだから。

「花音さん学校は?」

彼女は僕と同じ高校三年生のはずだが、僕より学校が遠い彼女が、学校が終わってすぐここへ来た僕と同じ時間にここにいるのはおかしい。そう思って尋ねると、花音さんは「一時間くらいサボってもどうってことありませんわ」としれっと答えた。

「それより、早く店へ向かった方がよろしいのではありません?今誰もいませんでしたわよ?」

「そうだね」

僕は「花音さんのおかげでね」という言葉を喉の奥に押し込んだ。花音さんがうちに来さえしなければ、おそらく今頃店長が店番をしていただろう。

僕のそっけない返事に、花音さんは手を腰にあててわざとらしいため息をついた。

「前から思っていたのですが、あなたもっと愛想よく出来ませんの?話していて不愉快ですわ」

「どんな顔して話そうが僕の勝手だし、僕と話して不愉快になろうが花音さんの勝手だと思う」

「そういう捻くれた返事も嫌味ったらしくていい気がしませんわ」

「僕が何て返事しようが、それも僕の勝手だよ」

それだけ言うと、僕は花音さんの脇をすり抜けてレジへ向かった。彼女がああいうことを言いはじめると後が長い。さっさと逃げるのが懸命だろう。

会計を済ませ、さっさとコンビニを出る。第一、僕は花音さんに特別好かれようと思ってはいないし、花音さんだって僕に特別好かれようと思ってはいないのだから、そんな相手にどんな態度を取ろうがそれはお互いの勝手ではないか。



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