298 浮遊大陸ロード島

 ジョットははしゃぎそうになる声を抑えて尋ねた。


「どうしてあんな光ってるんですか?」

「川底に輝石きせきの鉱床があるらしいよ。ここの水の透明度は世界一だから、よく見えるんだって。あの双子山から流れてるの。ずっとこれを見たかった」

「見れてよかったですね」

「ジョットのお蔭だよ」


 照れくさくなって、ジョットはあたりに目を移す。

 ロードスター杯最後のレースを観戦しようと、ドラゴンに乗った人々が続々とやって来ていた。心なしか今までの観客より身なりがいいように見える。中には、団体らしき同じスカーフを着けた一行もいた。


「わざわざメダルで場所知らせるから、秘密の島かと思いましたけど。普通に人来てますね」

「自然保護のために規制はしてるけど、隠してはないかな。メダルはそれっぽい演出したかったんじゃない?」


 眼下を指しながら、フィオはつづけた。


「とりあえず宿行こっか。選手は競技場コロセウム横の宿に部屋が用意されてるみたい」


 ロード島は双子山から流れる大河を境に、町の様相ががらりと違う。西側は競技場コロセウムと選手用宿泊施設があるくらいで、あとは練習場にもなりそうな公園が広がっていた。

 対して、川を挟んだ東側はごみごみしている。川沿いに宿らしき大きな建物が並び、隣接する通りには所狭しとテントが張られていた。三年に一度の大型競技会を狙い、世界中から集まってきた露店商に違いない。

 フィオと買い物できたらいいなと期待しつつ、ジョットは、あいつはもう宿にいるだろうかと考えた。


「フィオさん。宿に荷物置いたら、俺ちょっと用あるんですけどいいですか?」

「へえ。キースのとこ行くの」

「ちょ、心読まないでください!」

「なら私も行こうかなあ」

「フィ、フィオさんは足休めたほうがいいと思いますよ」


 えー? と不満がるフィオからは、『私も行きたいとこあるしちょうどいいか』と思考が流れてくる。にやりと笑ってジョットは仕返しした。


「ジンとかランティスのとこはダメですからね」

「ジョットも読んでるじゃん! 私はお店見たいだけ」

「なら、ついでに飲食店探してもらえますか。そこで合流しましょ。名前呼んでもらえれば、場所わかりますから」

「繋がってるって便利だね」


 くすくす笑うフィオを見ていると、にわかに不安を覚える。ジョットは回した腕を外して、視線を下げた。


「嫌、じゃないですか? 今さらかもしれないけど、知られたくないことも伝わっちゃうかもですし」

「それこそ今さらでしょ」


 振り返って、フィオはジョットの鼻をピンと弾いた。


「ジョットは私のかっこ悪いところ、いっぱい見てきたんだから」

「確かに」

「こら。少しは否定しなさい。なまいき」




「キースの部屋は……ここか」


 荷ほどきをしながら、伝心石で教えてもらった部屋番号を見つけ、ジョットは扉を叩く。

 こちらがルーメン古国に寄り道していた分、キースとヴィオラは先に到着していたようだ。ついでに合同練習しないかと誘うほど、ライバルは余裕だった。


「あれ。反応ないな」


 ところが返事がない。すぐ行くとあいまいな伝え方をしたから、すれ違ったのだろうか。眉を寄せながらも、ジョットはもう一度叩こうと手を構える。

 しかしそれはから振りに終わり、開いた扉からはヴィオラが出てきた。


「あ、ヴィオラさんこんにちは。俺、ちょっとキースに話が――」


 言葉が途切れたのは、ヴィオラの胸元がやけに開いていると気づいたからだ。暑い? まさかそんな。高度と反比例して、ロード島の気温は日中でも氷点下だ。だったらなぜ。

 軽く混乱するジョットを押しのけて、ヴィオラは隣室に駆け込んでいく。勢いよく閉められた扉の音と、ソファにだらしなく座るキースを見て、ジョットはなんとなく察した。


「取り込み中だった? 出直すか?」

「いや。あいつが強引に……あー、なんでもない。入れ。フィオのことで話があるんだろ」

「ああ。一年前の転落事故のことだ」

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