289 迷宮!ベルフォーレレース①
『さあっ、ロードスター杯ベルフォーレレース! すべてのライダーが後半の難関に突入しました。その名も“迷宮”! ここら一帯には
『そうっスね。事前の打ち合わせと、直前のやり取りがかなり重要スね。あとお互いの信頼も俺とパクさんくらいないと、マジでやべえです』
『おおっと!? 早くも先頭が迷宮を突破しました! 先陣を切るのはフィオ・ベネット! フィオ・ベネット選手です! しかし彼女の前に立ち塞がるのは巨木だ!』
薄闇降りる胞子の森を抜けた瞬間、フィオは目をつむった。心は闘志に燃えながら、奥底は
風音が忙しくなく鼓膜を叩く中、彼の声だけは鮮烈に響いた。
『
指示を聞くや否や、フィオは重心を左へ傾けながらハンドルを握り込む。相棒の意を汲み取ってシャルルは大胆に頭を下げ、身をひねりながら巨木の股を潜り抜けた。
迷宮を出た直後にあるこの巨木は、幹周りが半径三〇〇メートルもあり、迂回すると大きく時間がかかる。最短経路は、地面から浮き出た根の間を抜けることだ。
それには目隠し状態での予測と判断力、ライダーとナビの信頼がなければ叶わない。
「さっすがジョットオ。完璧に合わせてきたね」
『フィオさんこそ。目標との誤差ほとんどないから、指示いらないくらいでしたよ』
くすくすと笑いながら根っこを抜け、フィオはゴールの
心でぽつりと不安をこぼした。
『迷宮で交信能力使ってないから、違反じゃないよね?』
すぐさまジョットの声が、内側で響く。
『平気ですよ。位置だって地図上でわからないなら、役に立ちません。森のほうにフィオさんいるなー、ってだけです。気にし過ぎですよ』
『そうなんだけどさ。ずるで勝ちたくないじゃん』
『ずるじゃないです、これは。みんなが発信石や伝心石でやってることを、俺たちはなしでもできるってだけの違いですよ。そもそも規則のどこに「交信能力を使っちゃいけません」って書いてあるんですか?』
『そんな特殊能力持った人が、私たち以外にいて堪るか』
そう言い返してやると、ジョットはうれしそうに笑う。大方、フィオと自分を繋ぐ絆の特別感に酔っているのだろう。交信能力を使うまでもない。
最後の関門、
「ほら、最後まで集中してよ! 後続の位置は!?」
『二位はキース! ぴったりついてきてますよ。三位のランティスは巨木を迂回して少し下がりました!』
「へえ、キース。この私と射撃勝負しようっての? いいじゃん、ぶっち切ってやろうよ相棒!」
シャルルが威勢よく吠える。フィオは背中のライフルを掴み取りながら、黙ったままの伝心石に向かって叫んだ。
「どうしたの! 返事が聞こえないんだけど?」
『え。相棒って……』
「あれ。あなたは違ったの? ねえ相棒!」
『あ……。お、俺がフィオさんの相棒に決まってんでしょ! ぶちかましてください!』
「上等」
瞳を笑みの形に絞りながら、フィオとシャルルは
ハンドルを掴む腕のひじが、負荷に熱を持っていた。ギリギリまで低くかがめた首裏が、ピキピキと震える。シャルルの動きを妨げないよう腰を浮かせた分の体重は両足へ集中し、患部はとうに限界だった。
「痛い」
神経を直接刺されているかのような痛みに、呼吸もままならない。ともすればこの銃で、足を吹き飛ばしてしまいたい衝動に駆られる。
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