145 格式高きルーメンレース!②
イヤリング型
『地図がどこかに飛んでいってしまったんだが』
「はい?」
『指で強く弾き過ぎてしまったみたいだ。どこが表示されているのかわからない……』
地図上で迷子になるナビがいるか。のどまで出かかったツッコミを堪えて、フィオは引きつった笑みを浮かべる。
「一回閉じてください。そしたら戻りますから」
『わかった。……閉じたよ。……うん、よし、戻った。ありがとう!』
「どーいたしまして」
罪滅ぼしをしたいと言うランティスの殊勝な心がけに免じてずっと黙ってきたが、はっきり言おう。彼はナビに向いていない。
飲み込みの早さはさすがだった。フィオが指導しなくとも、三日目にはひと通り習得していたと思う。
しかし竜騎士の鋭過ぎる感覚が仇となった。肌に染み込んだそれを、言語化することに慣れていない。きっとそれは、彼が指示される側でも同じだろう。ナビなしのほうが速いライダーもいることを、フィオははじめて学んだ。
加えてランティスは少々、道具音痴だ。
『フィオさん。いっしょに力を合わせて、必ず一位を獲ろう!』
「そうですね。がんばりましょう」
四位に入れれば御の字かな、とフィオは冷静に考える。
勝敗を分ける鍵は階段井戸だ。狭い構造体をうまく切り抜けることができれば、上位入賞は堅い。そのためにフィオは秘策を用意していたが、ひとつ欠点があった。それを補ってくれるナビに一抹の不安を覚え、迷っている。
「ジョットくんだったら……」
一斉に点灯したスタートランプの赤灯は、待ってくれない。ひとつ、ふたつと進み、黄色へと変わる。
「いや。あの子を本来の輝かしい未来へ送り出すためにも、私はここで勝つ」
最後のランプが煌々と青く灯った。弾ける歓声の風に乗り、ドラゴンたちは勇ましく飛び立つ。フィオの思いに応えて、シャルルも迷いなく翼を奮う。
一歩遅れた植物科ドラゴンを抜かし、
『
ランティスの指示が飛ぶ。
フィオは角度をつけながら右へ旋回した。赤レンガのとんがり屋根が連なる街並みを、舐めるように突き進む。
怖いもの知らずの人々が屋根に登って、旗を振ったり帽子を飛ばされたりしている姿が、あっという間に流れていった。
『現在一位集団の中だ。集団は三十名ほどいる』
「さあて。何人が無傷で通れるかな」
住宅街が途切れ、開けた視界に大地の終わりを捉える。その先は断崖絶壁、赤岩のゴツゴツした肌がほぼ垂直に大地へ突き立つ。
災害用伝心石から実況者の声が響いた。
『先頭集団はさっそく第一の
「シャルル、
ここは変に指揮せず、シャルルの五感と勘にゆだねる。代わりにフィオは可能な限り姿勢を低くして、周りのライダーとドラゴンに注意を払った。
シャルルは呼吸を研ぎ澄まし、まるで魚のように身をくねらせ回避していく。横から来ればサッと上昇し、跳ね返って腹部に迫ったものは体を縦にしてやり過ごす。さらに左右、斜め上から同時に降り注ぐ赤い玉を、翼を畳んでぐるりと回りすり抜けた。
「本当に竜騎士ってこんな訓練してるんです?」
『ははっ。よく再現されてるよ。フィオさんの実力なら僕の隊に欲しい』
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