74 地響き③
突然、ハーディが顔をしかめて相棒を見上げた。ヴィゴーレが頭を振って、岩山から離れている。
「引っ掻かれたみたい。向こうにいるドラゴン、かなり気が立ってる」
よくよく見てみると、岩山の隙間からドラゴンが前脚を突き出していた。ヴィゴーレが近づこうとするだけで、めちゃくちゃに脚を振って威嚇してくる。
きっと相棒の人間を守りたい一心からの行動だ。落盤で神経が過敏になり、岩山を崩す音や気配まで脅威に感じているのだろう。
「すみません! 誰かここを代わってください! ……少年、力を貸して」
フィオは走り寄ってくる鉱夫を確認してから、ジョットを連れてその場を離れた。シャルルに乗って岩山の頂上に向かう。
なぜ自分が前に乗せられたのか、ジョットは不思議そうな目をしている。フィオは首から下げた角笛に手をかけた。
「あなたの力で、向こうにいるドラゴンたちに『危険はない。助けたいだけだ』って伝えて欲しいの」
「でも、興奮状態のドラゴンとうまく交信できたのは、シャルルだけです」
「私も協力する。やってみて?」
「……わかりました」
深く息を吸って目を閉じたジョットを見ながら、フィオは角笛を構える。ひもを持って、ゆっくりと回した。風が小さな空洞を駆け抜けて、ヒュルヒュルと音を奏でる。それは坑道の岩壁に反響し、
岩山の隙間からは、まだドラゴンの荒い息が噴き出し、こちらに向かって爪が突き出てくる。
フィオは腰のポーチに手を伸ばした。鎮静効果のあるシッポ草を、粉末状にした鎮静香を掴む。いざとなればこれを二、三個投げ入れようと構えた。
しかし、次第に岩山の向こうからドラゴンの気配が薄くなっていく。
「たぶん、離れてくれたと思います」
「さっすが少年! 頼りになるね!」
ついジョットの頭をなでてしまい、びっくりさせたことを謝る。乱れた髪を押さえながら、少年は珍しく小さな声で「いえ」と目を逸らした。
それからヴィゴーレの作業は順調に進んだ。十分な隙間ができたところで、フィオとジョット、ザミルは相棒に跨がり奥へ向かう。
奥は発光石がすべて割れてしまったらしく、手元も見えない。フィオはランタンを掲げて呼びかけた。
「みなさん、無事ですか!?」
「こっちだ! こっち!」
声のするほうへ近づいてみると、鉱夫たちが身を寄せ合って座り、その周りを相棒ドラゴンたちが守っていた。
ドラゴンたちはギロリとにらみつけてきたが、ジョットが進み出るとなにかに気づいたように居直る。
鉱夫のひとりが立ち上がって、状況を話しはじめた。
「こっちは九人とドラゴン九頭。負傷者は四人だ。うちひとりは落石で足が折れてる」
「その人は早くここから出したほうがいいですね」
ザミルの判断に鉱夫もうなずく。怪我人を抱えて飛べるか、隙間を見上げるふたりに、フィオは待ったをかけた。
「生き埋めになっているのは十数人と聞きました。本当に他にはいませんか?」
「あ! しまった!」
そこへパチンッと小粋いい音が鳴った。見るとスキンヘッドの男が頭を抱え、嘆いている。嫌な予感を覚えたのは鉱夫も同じで、「どうした!」と鋭く問いかけた。
「若えのがふたり、まだ粘るっつって残ったんだ」
「そのふたりは戻ってきてないんですね!?」
フィオは焦りを抑えて確認する。
「ああ、戻ってない。奥でも落盤が起きて足止め食らってるか、もしくは……」
「残ったのはどこだ。教えろ」
苛立ちをにじませ、鉱夫は記憶石を展開する。緑の線で描かれた立体地図が浮かび上がった。数えきれないほどの坑道が、複雑に絡み合っている。
「この第三坑期区画の階段で別れた。きっともう少し奥に行ってるだろう」
「ちっ。捜しに行く!」
「私も行きます!」
「待てフィオ! それなら俺が行く」
鉱夫につづいて申し出たフィオを、ザミルが止める。しかしフィオには考えがあった。
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