63 エルドラド国首都ドルベガ①
ギロリとにらまれて、ジョットは正直過ぎる口を押さえた。上目遣いで見つめると、フィオはため息ひとつで流してくれる。
内心でぺろりと舌を出し、ジョットはいそいそと酒ダルをよじ登った。
「私のことは『フィオお姉さん』って呼んでもらおうかな」
「え、嫌です。絶対嫌ですから! もう交渉成立したんですからね。これ以上の条件追加は無効ですよ!」
すでに慣れた動作でシャルルに乗り込み、かばんを網に押し込む。
大人ひとり、子どもひとり、大きなかばんふたつに、特大の酒ダル一本。ロワ種でもないシャルルの体は、もう荷物だらけだ。だいじょうぶなのだろうか?
「たまに慕ってるんだかそうじゃないのか、少年がわからなくなるよ」
不安を覚えるジョットをよそに、フィオはいつも通りシャルルの首を軽く叩いて合図を出す。ジョットはフィオの腰に掴まりながら、シャルルの翼の元に風が集まってくる音を聞いた。
飛び立った瞬間、ジョットは違和感を抱く。酒ダルの重さをまったく感じなかった。まるで風船のように、いっしょに浮き上がったようだった。
「風の抵抗を受けやすいからね、シャルル。高度は低めに、あんまり飛ばさなくていいよ」
「ドラゴンって本当に力持ちなんですね」
ジョットが感心していると、シャルルが得意げに鳴いた。フィオは笑って黒い翼を指す。
「ドラゴン学者によると、ドラゴンの翼には風のマナを集める力があるんだって。それで自分の体から下方を浮かせることで、巨体でも速い飛行を可能にしているって言われてるよ」
「なあんだ。マナの力なのか」
わざとがっかりしてみせると、シャルルは尻を揺らしてむくれた。低い声で、フィオがあっさり種明かししたことを非難する。
ジョットとフィオはそろって笑い声を上げ、シャルルに「ごめん」と謝った。
* * *
アンダルトから東の港町へ出て、海岸線に北上。コーダ・タルタル山脈の頂きを横目に見つつ、フィオたちは隣国エルドラドに入った。
海上の船に設けられた関所を通過したあとも、大陸の縁をなぞって進む。
左手、内陸側には国境を越えてからずっと、来る者を拒むかのような山脈の壁が連なっていた。ようやく見えてきた壁の切れ間には、大交易都市ジンゲートが広がる。
大型貨物船がいくつも停泊する、勇壮な港がある街だ。あいにく、一泊した宿は船も港も見える位置ではなかったが、数日ぶりにベッドで眠れるなら文句はない。
そしてフィオたちは、ジンゲートから西へ進路を変えた。
南のコーダ・タルタル、北のローク・タルタル、ふたつの山脈に挟まれた深い谷を飛ぶ。春も盛りを迎え、日照時間が延びるにつれて気温も上がってきたが、ここだけは違う。朝はなかなか太陽が昇らず、昼を過ぎたと思ったらあっという間に夜だ。
日光が届きにくい渓谷に草木は育たず、剥き出しの岩肌を冷たい風がなぶる。
「よかった。なんとか日暮れまでに着いたね」
「ここがドルベガ……。すごい。まるで宙に浮いてるみたいだ」
感嘆のため息をもらすジョットに、フィオもうなずく。はじめて来た時は同じ感想を抱いた。
西のカスカ・タルタル山脈を切り崩し、拓かれた首都ドルベガは、三方を山と谷に囲まれた街だ。一歩踏み出せば断崖絶壁。底知れぬ谷に落ちることになる。
そんな険しい渓谷の中で、ドルベガは闇を寄せつけないかのように煌々と輝いていた。その最たる光源が、最上段に構える黄金宮殿だ。磨き抜かれた金の壁が、発光石の光を無闇に反射させ目に痛い。
「あの宮殿ってなんですか、フィオさん」
「カジノとホテル。子どもには無用だから近づかないように」
フィオは街から四方八方に伸びる橋を飛び越え、郊外へとシャルルをうながす。
この橋は周囲の山脈へ渡るためのものだ。タルタル連峰は鉱石の宝庫。マナが宿る
鉱石を売って繁栄したドルベガを、人々は黄金都市と呼ぶ。
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