39 家族の再会①




 翌日。フィオはジョットとシャルルを伴い、アンダルトの街に向かった。半年ぶりに帰ってきた故郷は、以前より活気に満ちている。

 それもそうだろう。三年に一度開催されるロードスター杯は、世界中が注目する国際大会のひとつだ。今アンダルトには、三週間後のドラゴンレース目当てに、各国から観光客が集まっている。


「まずは参加登録しちゃいますか」


 フィオは手続きを済ませるため、会場となる競技場コロセウムに足を向けた。ジョットが横に並んでついてくる。


「でもフィオさん、先にキースと話したほうがいいんじゃないですか」

「だいじょうぶ。まだ二週間は変更可能だから。それにナビをつけるかは任意だし」

「え、それって……」


 目を見開いて、ジョットの歩みが鈍くなる。フィオがひとりでも飛ぶつもりだとは、考えもしなかった表情だ。

 確かに、コースの全形を把握し、他の選手の動向を監視できるナビの存在は、勝敗に大きく関わる。優勝を狙う者の中に、ナビをつけない愚か者はまずいなかった。


「もちろんキースは連れ戻すよ。でもこれは私の決意表明なんだ」


 競技場コロセウムの玄関広間で、フィオは書類に必要事項を記入し、提出した。運営委員の男性は、代わりに小型トランクを差し出す。


「そのトランクにはなにが入ってるんですか?」


 ジョットはフィオが持つかばんに興味津々だ。


「レースに必要なものがいろいろ。コースの地図とか、ライダーの位置情報がわかる装置とか」

「そういうの使ってナビは案内するんですね」


 うなずき返しつつ、フィオは道の端に寄った。


「私はこれから資金調達に行くけど、少年はどうする?」

「俺も稼がなきゃいけないんですけど、その前に……」


 言いきる前に、少年の腹から小竜の声に似た音が鳴った。


「腹ごしらえと仕事ができるところだね」

「へへへ。どこかいいところありますか。お金はあんまりないんですけど」

「うん。仕事はわからないけど、安くごはんを食べられるところは知ってるよ。いっしょに行こう」


 そう言ってフィオがジョットを連れていったのは、東門から王城にかけて広がる森林公園だった。

 元々は王の庭だったんだ、と豆知識を挟みつつ、城壁沿いの建物へ飛んでいく。半円のその建物からは、大木の頭が突き出ていた。

 枝葉の中から獣の声がひっきりなしに響いてくる。


「木にとまってるのってドラゴンです?」

「そ。ただいまあー」

「ただいまって、え!?」


 戸惑うジョットには構わず、シャルルはぽっかり開いた天井から入っていく。

 中は何層も分かれ、大小様々な荷物が積まれていたり、細かな棚に色とりどりの封筒が収められたりしていた。

 ドラゴンに乗ってそれらを仕分けていた男性は、脇を通り抜けたフィオに頓狂な声を上げる。


「あれ。フィオちゃん?」

「え。ナイト・センテリュオってまさか」

「うそ! 久しぶりー! 帰ってたんだ!」


 次々と気づく従業員たちに、フィオは手を振る。シャルルもうれしそうに吠えるものだから、騒ぎは最下層まで広がっていった。


「ここ郵便局ですよね」

「そうだよ、少年。私の実家です」


 正しくは義父ノワール・カーターが局長を務める、カーター家の職場兼自宅だ。しかし幼少から過ごしてきたフィオにとっても、第二の実家である。

 と、その時、フィオは一階のソファに腰かける青髪の男性に気づいた。ぐわりと沸き立つフィオの怒気と同調して、シャルルもまっすぐ男性へ狙い定める。


「そこの青髪神妙にしろおおおっ!」


 シャルルが速度を上げ、接近した瞬間フィオは飛び降りた。上空から拳を振り上げ、速力をまとった一撃を男に見舞う。

 しかしそれはいとも容易く男の手に受けとめられた。


「元気だな、フィオ。安心した」


 青い前髪がさらりと流れて、拳越しに赤紫色の目がフィオを捉える。相変わらず涼しげな顔と淡々とした声だった。

 義妹いもうとの怒りがまるでわかっていないキースの態度に、フィオはますます煽られる。

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