24 急変②
あまりにも強く、まっすぐな金の眼差しに貫かれる。見つめていると引き込まれそうで、フィオはうつむいた。九年前も、再会した時も、引き合う星のように心の重力波を狂わされる。
その時、遠くから叫び声が響いた。暴走するグルトンと遭遇した村人のものに違いない。全力疾走するドラゴンとぶつかれば、死者が出てもおかしくなかった。
問答している猶予はない。
「乗って! しっかり掴まって!」
ジョットに手を伸ばし、引き上げる。少年がレフィナに跨がったところを見計らい、フィオは手綱を振った。
グン、とあたりの景色を置き去りにして、レフィナは一気に加速する。
「わわわっ」
その速さについていけず、ジョットは仰け反って今にも落ちそうになった。
「なにやってるの。掴まってって言ったでしょ!」
宙をもがく手を掴み、フィオは迷わず自分の腰に導く。
「え、えっ。フィオさんの腰に俺の手が! 腰に俺の手が!」
「うっさい! もっとしがみつかないと振り落とされるよ!」
前方に出てきた家畜ボア・ファングの列を、レフィナは軽やかな跳躍で越えた。ジョットは絶叫を上げながらも、フィオの腰にしっかり腕を回す。
誰かとドラゴンに乗るのは、父親以来だろうか。フィオはふと懐かしさを覚える。
お母さんもいたら、こんな風に抱き締めてもらえたのかな。
「見えた! あそこ!」
警報が響き渡る中、村外れの川にほど近いところまで来た時だった。めちゃくちゃに踏み荒らされた畑の真ん中に、グルトンを見つけてジョットが叫ぶ。
ディックを振り落とそうと、また暴れ回っていた。少年は細い腕で懸命にハンドルを握り、なんとか堪えている。フィオは心の中でディックを褒め称えた。
「離れて! 建物の中へ避難してください!」
子どもを助けようと、村人と相棒ドラゴンが近づこうとしていた。下手に興奮させてはディックが危うい。
フィオは声を張り上げ、畑に入らないよう警告する。そしてサイドバッグから弾を取り出し、ライフルに手早く
「それは!?」
ジョットが手元を覗き込んでくる。
「鎮静弾。人が吸っても害はないから、一発足元に撃ってグルトンを大人しくさせる。でも、あの状態のドラゴンに効くかはわからない」
跳ね回るグルトンを見据え、そっと手綱を放す。そのまま、まっすぐだよとレフィナに伝えたが、一抹の不安が残った。
銃床を肩にあて、フィオがライフルを構えれば相棒なら――シャルルなら、頭を下げてくれる。けれど、レフィナにその素振りはなかった。
「集中しろ。やるしかない」
十分引きつけ、グルトンの脚が地面に着く瞬間を狙って、引鉄を絞る。
弾はグルトンの脚に当たり、白い煙が鈍い音とともに弾けた。驚いたボア・ファングとディックの声が響く。
その脇を
グルトンは首を振り、うなり声を上げて煙を嫌がっているようだった。相棒でも家畜ドラゴンでも、まず見ない反応にフィオは目を細める。
鎮静弾は、ドラゴンが好むシッポ草の花穂から作られる。その香りに誘われ、眠るドラゴンもいるほどだ。なのに今のグルトンはまるで、好きなにおいを忘れてしまったかのようだ。
「あ、フィオさん。グルトンの様子が」
次の弾を込めていると、グルトンの動きが鈍くなってきた。
「うっ、ううっ。助、けて……」
しかしディックはもう限界だった。体は投げ出され、両手で掴まりぶら下がっている。その危うい均衡も、片手がハンドルから外れて一気に崩れる。
農夫たちからどよめきが起きる中、フィオはレフィナを走らせた。
「ディック! 手を伸ばして!」
「フィオ……? ふぃおお……っ!」
こちらに気づき、ディックは精一杯手を伸ばした。フィオも手綱を放し、ライフルを肩にかけて身を乗り出す。それをジョットが後ろから支えた。
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