21 整列。ブラウン一家①
うずうずと伸びてきた手を、フィオはぴしゃりと打った。
「だーめ。競技用でも立派な銃なんだから。許可証を持ってる人以外、触らせることもできません。成人になって訓練受けて、自分の銃でやってね」
「うー。また成人ですか。あと二年も待てませんよ」
仏頂面を下げて、ジョットはちらりとフィオを見やる。
「……今までだってずっと、我慢してたのに」
そんなに銃が欲しかったのか。と、目をまるくしているところへ、ティアが帰ってきた。女主人は食材の買い出しにいっていたのだが、ずいぶんと買い込んだようだ。重そうに置いた麻袋からタマネギが転がり落ちる。
「ティア、手伝おうか。あれ? この袋タマネギだらけ?」
「これで終わりじゃないのよ」
どういうことかと、フィオはジョットと顔を見合わせる。ティアは扉を気にしながら、フィオに身を寄せて声をひそめた。
「あのね、謝りたいって言ってるのよ」
「誰が?」
「ディックとアン。というか主に、父親のエドワードがね」
記憶の片隅で、固まっていた兄妹の顔がよみがえる。この大量のタマネギはお詫びの品かと合点がいった。
タマネギサラダにタマネギドレッシングをかけ、タマネギスープで口直しする食卓が
「いいってばそんなの! 私気にしてないから。だいたいブチギレたのはバカ兄のせいだし」
「なに。そのディックとアンとかいう輩に、なにか言われたんですかフィオさん。そんなの潰しましょうよ。有名人なら叩いてもいいとか思ってるクソミソのガキは口で言っても理解できませんから。あとキースには脅迫状書いたんでだいじょうぶです」
「トマト潰すみたいな軽いノリでなに言ってるのかなこの子は!? ディックとアンは本当に子どもだから! いたいけな十歳と八歳だから! しかも有名人叩いてるのあなたじゃん! その脅迫状はあとでお姉さんに提出しなさい!」
「自分のこと『お姉さん』呼びするフィオさん、イイ。萌え……」
ダメだ。ジョットを構ってると先に進まない。置いていこう。
フィオがティアを見ると、彼女もまた同じ悟りを開いた目をしていた。
「とにかくお詫びはタマネギで十分です、って伝えてくれる?」
「そうね。私もそう思うんだけど……もう来ちゃってるのよ」
なにが、とは聞くまでもなかった。ティアが視線を向けた玄関扉を、フィオはそっと開ける。
汗を拭うエドワード、娘のアン、ボア・ファングに乗った息子ディックが、きれいに整列している。まるでこの宿に敬愛すべきヒュゼッペ王が滞在しているかのように、小ぎれいなシャツを着てピンと背筋を伸ばしていた。
さらにフィオは見てはいけないものを目にする。ボア・ファングが牽く荷車には、キャベツの山が築かれていた。
「待ってティア! 私は草を主食にした覚えはないよ!」
「私だって嫌よ! だから逃げ帰ってきたんじゃない! あんな山盛りキャベツ、レフィナだって食べないわ」
扉を閉めて小声で言い合う。たとえギルバートとアヴエロに応援を頼んだとしても、半分も消費しないうちに逃げ出すに決まっていた。
「あのう、ティア? フィオ・ベネットさんはいらっしゃったかい?」
ところが話し声が聞こえてしまったのか、エドワードが催促してきた。フィオとティアはそろって肩を震わせ、息を止める。
「よっしゃ。俺がガツンと一発やってやりますよ」
腕を回しながら、ジョットは隅に立てかけてあるほうきへ歩いていく。その首根っこを捕まえて、フィオは観念した。
「しょうがない。わかってもらえるように話してみるよ。あのキャベツだけは、絶対受け取らないようにするから」
ティアと神妙にうなずき合い、ドアノブに手をかける。当然のようにジョットが横に並んだ。
「ああっ、フィオ・ベネットさん! お会いできてよかったです! 改めまして、エドワード・ブラウンと申します。そこにいるのは相棒ドラゴンのグルトンです。いつも息子と娘がお世話になりまして……」
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