07 いちばんぼし③
シャルルが高く長い声で鳴いた。まるで音色に乗せて歌っているみたいだと、ジョットは思った。
にわかに眠いような心地がしてくる。
「ドラゴンはこの音がすごく落ち着くみたい。ジョットにこれを持っていて欲しい」
夢見心地から覚めて、ジョットは頭をぶんぶん振った。これを受け取ったらフィオは、自分を置いていってしまう。
「いやだ! フィオおねえちゃんがいい! こんなのいらない!」
「……兄弟角携え別れしふたりは、固い絆に導かれ、再び巡り会うだろう」
唐突にフィオが口ずさんだ言葉は不思議めいていて、ジョットは首をかしげた。
「私の故郷、ヒュゼッペの言い伝えだよ。角が再会の時を告げる。そしてドラゴン――シャルルが、私たちを導いてくれる」
目の前に差し出された角の輝きを怖がって、ジョットはフィオの首にすがりついた。
行かないで。置いてかないで。
思いを込めて肌をすり寄せる。
けれどフィオは抱き締め返してくれなかった。ジョットを待つように、じっと動かない。
「……ほんとうに、もどってきてくれる?」
「必ず。シャルルとレースライダーの誇りに誓うよ」
ジョットは身を起こし、おずおずとシャルルの角笛を取った。それを握り締めて、フィオの目を見つめる。
「ぜったいだよ。まってるから、ずっと」
にわかに込み上げてきた涙は、なんだか弱虫みたいで袖で拭った。フィオの夢を、やりたいことを、邪魔するのは嫌だ。
「ああ、ジョット……」
大好き。
やさしい笑みといっしょに、フィオは額にキスしてくれた。
その数日後、フィオとシャルルはシャンディレースに出場する。しかし残念ながら、その年のロードスター杯最終レースに、彼女の名前が挙がることはなかった。
三年後に再び巡ってきた大会も、さらに三年後に開催された大会も、あとひとつの勝利を飾ることができずフィオは敗退した。
そのうち、年に数回やり取りしていた文通も途絶え、ジョットから彼女の詳細はわからなくなった。
そしてジョットがフィオと出会って八年の月日が流れたある日。日刊ドラゴニア新聞によって、戦慄の事実が知らされる。
ベネット重傷事故
ロードスター杯出場は絶望的か
八年前、ロードスター杯初出場にして、
ヒュゼッペレース初優勝に輝いた、
フィオ・ベネット氏が練習中に転落。
足の骨を折る重傷を負った。
現在、氏は治療中だが、
来年開催予定のロードスター杯出場は、
厳しいとの意見も出ている。
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