雪女と最悪の金曜日(5)


 それから、犯人の要求通り廣岡先生は駐車場に停めてあった自分の車に乗り、ジャスコまで向かった。

 覆面パトカーが、その後ろを追跡。


 俺たちはついて行くことはもちろんできず、ただ、結果を待つしかなかった。

 幸い、廣岡先生は発信機とマイク装着しているため、その後の動きがどうなっているかは、ここからも一応確認できる。

 ジャスコのコインロッカーの中に、ケータイが一台入っていて、次の指示はそのケータイを通して行われた。

 一つ目は、同じジャスコの中にある東口コインロッカー12番に入れて、鍵はロッカーの一番上に。

 二つ目は、ほぼ反対側南口のコインロッカー14番に入れ、同じくロッカーの一番上に鍵を置く。

 三つ目は、ジャスコではなく、駅に向かえという指示。


 ジャスコのコインロッカーの近くには捜査員が配置され、身代金を犯人が取りに来るのを待ち構える。

 駅に着いたら、またケータイに犯人から連絡が入り、トイレ周辺にあるコインロッカーの8番に入れるよう指示があった。

 鍵は、同じくコインロッカーの一番上に置くよう指示。


 廣岡先生は全て言われた通りにする。

 こちらにも、捜査員は配置され、犯人が来るのを待つ。


 犯人は、最後の電話で身代金を無事に手に入れたら、冬野先生を居場所を教えると言っていた。

 ところが、三十分以上経っても、一向に犯人は身代金を取りにジャスコにも駅にも現れる様子がない。


「一体、どうなっているんだ?」


 監視カメラや、捜査員から送られて来る映像を見ても、ロッカーに近づく人は少なく、身代金が入っているロッカーの鍵を取る人もいない。

 冬野先生は無事なのか、まったくわからない。

 犯人からの連絡もない。


「あ、また入電です!」


 もう一度、犯人からの電話が校長室にかかって来る。

 冬野先生を解放したという内容だった。

 捜査員が直ちに、冬野先生の元に向かう。

 そして、電話に出た校長先生がなんとか会話を引き延ばしたおかげで、逆探知に成功。


 それと同時に、ジャスコのコインロッカーの方に二人、怪しい動きをする男が現れた。

 二人はそれぞれ12番、14番のロッカーを開けたところで、捜査員に確保される。

 逆探知された主犯と思われる男は、駅の方で確保された。


 ところが、冬野先生がいるとされた場所に、その姿はなく、確保された三人の男たちも、その居場所を知らないという。


「お、俺はただ、ロッカーの荷物を受け取って来いって言われただけで……」

「俺だって、ここへ行けって言われてきただけだ!」

「俺も、この脚本通りに話せって……K大の映像研究会で映画に出て欲しいって言われて……————」


 三人とも容疑を否定していた。




 *



「それじゃぁ、冬野先生はどこにいるんだよ! 父ちゃん!」


 警察は冬野先生を探していたが、ケータイの電源が入っていないか、電波の届かないところにいるため、見つけられずにいた。


「せめて、電源が入って入ればGPSで大体の一は見つけられるんだが……」


 刑事たちはみんな、厳しい顔をしていた。

 学校の防犯カメラは、職員玄関にしか設置されていないし、正面玄関やそれ以外の場所からだって外に出ることは可能だ。


 先生は、一体、いつ、どこに連れ去られた?

 サイバー班らしき女性刑事がPCをカタカタとものすごい速さで操作し、ケータイの発信履歴を今必死に探っている。


「最後にケータイを使った場所は、この学校ですね。メールを一通送って……そこで切れてます」

「15時39分ですね」

「HRが始まる直前か……それなら、執事さんが保健室で脅迫状を見つける前だな……すでに誘拐されて、校舎外に出された可能性が高い」

「ですよね……」

「その最後に送ったメールの内容は?」

「えーと、ちょっと待ってくださいね……」


 ————15時39分……?


 俺はすぐに自分のケータイを開いた。

 15時39分。

 あの登録していないメアドから送られてきたメールと、同じ時間だ。


「ゆ……雪兎さん!」

「な、なんですか? 急に……」


 俺はそのメールを雪兎さんに見せた。


「この電話番号、もしかして、雪兎さんの番号ですか!?」


 雪兎さんは目を大きく見開いて、驚いた顔をする。


「そ、そうです!! それに、この内容……!! この文面、お嬢様からじゃ!?」

「やっぱり……! でも、どうして、先生は直接雪兎さんにメールしなかったんだ?」

「そ、それは……」


 今度は、バツが悪そうな顔になる雪兎さん。


「それは、私がメールができないからです。その、どうも私は最新機器が苦手でして……メールとかインターネットとか、その必要性がわからないし、電話さえできればいいので、メールの契約はしていないんですよ」

「え!? 若そうなのに、なんですかその老人みたいな考えは……」

「と、とにかくですね、きっと、それでお嬢様はあなたにメールしたんですよ!! 私のケータイ事情より、早くお嬢様を助けないと!! お嬢様は暑いと死んでしまいます!!」


 メールには、チャイムが聞こえるから校舎内か、その周辺ではないかと書かれている。

 このメールが届いてから、もう4時間くらい経過してる。

 はやく、先生を見つけ出さないと……!!


「佐々木、この学校で狭くて暗くて、外側から鍵がかけられる場所ってどこだ!?」

「は!? なんだよ、小泉いきなりだな」

「お前ならわかるだろう!? それと、暑いところだ。そこに冬野先生がいるかもしれない!!」

「な、なんだって!? おい、みんな!! 探偵部!! 全員集合!!」


 それぞれ散り散りに座っていた探偵部六人全員、校長室を飛び出した。


「暑いかどうかはわからねーけど、外側から鍵がかけられるなら、いくつか考えられる場所がある、手分けして探すぞ!!」




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