雪女と在りし日の都市伝説(4)



 昼休み、探偵部は部室に集合。

 夏休み明け、最初の探偵部の活動は都市伝説の解明となった。

 いつものように、佐々木は現段階でわかっている情報を黒板に書いていく。


【紫鏡(ムラサキカガミ)】

 落ちている紫鏡に「私、綺麗?」と尋ねなければならない。

 鏡の中の自分が笑顔なら助かる。

 笑顔ではない、または尋ねなかったものは呪われ、迎えがくる。


 流行った地域では実際に幼児〜小学生女児の行方不明事件が数件発生している

 被害者多数

 →後日、山林等で遺体発見。

 衣服等は身につけておらず、両手を赤いロープで縛られ、全身に暴行の形跡あり。


「————と、まぁ、俺が父ちゃんから聞けたのはこんくらいだ。まだこの紫鏡のせいで行方不明になっている……とも限らないし、捜査してるけど……これ以上は話せないって言われてさ」


 行方不明になっている子が全て紫鏡の被害者とは限らないし、事件が起きた日時や場所にも統一性がないらしい。

 とにかく、まだまだ分からないことだらけだそうだ。


「しかも、この事件、実は連続殺人の可能性があるらしい」

「連続殺人?」

「ああ、これは父ちゃんの同僚の刑事に聞いた話なんだが、十年前から八年前にかけて起きた少女連続誘拐殺人事件の犯行手口に似てるみたいなんだ。ほら、小泉の家で捕まったあの爺さんいただろ?」


 ああ、あの屋根裏に潜んでたとんでもない爺さんか。

 まさか、少女誘拐殺人の犯人だとは知らなかったけど……


「あの爺さんの被害にあった子達も、同一犯なんじゃないかって捕まるまでは思われてた。でも、爺さんの事情聴取したところ、三件だけだった。六年前の五十嵐歩美ちゃん、五年前の山川美衣ちゃん、三年前の沢口マリちゃん……実際には、今回の紫鏡の事件とよく似ている事件が最後に起きたのは、八年前の殺人未遂が最後で、この八年間は一件も起きてなかったんだよ」


 佐々木は次に、八年前の事件を最後に犯行が途絶えたという昔の事件の情報を黒板に書き出した。


【UFO少女誘拐連続殺人事件】

 幼児〜小学生の間でUFOや宇宙人の目撃情報が多発。

 宇宙人に出会ったら、「私、いい子?」と聞かなければならないという噂が広まる。

 宇宙人の目に映る自分の姿が、笑顔だったら助かるが、そうでなければUFOに連れ込まれ、体を改造される。


 当時6才〜11才の少女が行方不明

 8名死亡、生存者1名

 →後日山林や空き地、廃屋等で遺体、または意識不明の状態で発見。

 衣服等は身につけておらず、赤いロープで両手を縛られ、全身に暴行の形跡あり。

 犯人のものと思われる手がかりは何一つ検出されていない。

 唯一の生存者は「宇宙人に体を改造された」「『必ずまた会いに来る』と言われた」などと証言。


「行方不明になった後、赤いロープで両手を縛られて、裸で捨てられていた。それだけで、犯人につながるような証拠は、何もなかった」

「……ちょっと待て」

「ん、なんだ? 小泉」

「その、生存者の一人って、名前は……?」


 とても聞き覚えのある話すぎて、俺はこう考えるしかなかった。


「えーと、桜井さくらい多花音ちゃん、当時八才だ」


 やっぱり、多花音だ。

 でも、苗字が違うのは、どうしてだ?


「一応被害者の名前も全部書いておくか」


 佐々木は一番下に当時の被害者の八名の名前を書いた。


 阿部奈々(8)、林みくる(11)、佐藤小春(9)、鈴木美優(7)、山田愛里(6)、渡辺彩香(10)、清水舞(10)、山崎めぐみ(9)、桜井多花音(8)



「それじゃ、とりあえず放課後に鎌田の家に行ってみるべ。妹から話を聞こう」

「いや、俺は気になることがあるから、お前らで先に聞いて来てくれ。あとで合流するよ」

「……そうか?」


 確かめなければ。

 もし、この紫鏡の都市伝説が、八年前の事件と同じ犯人だとしたら……多花音の話は犯人を捕まえるヒントになるかもしれない。


 都市伝説とか噂話なんてものは、当事者さえ捕まえてしまえば自然といつの間にか鎮静されるものだ。

 実際、鎌田の妹のクラスメイトが行方不明になっているなら、早く見つけないと……————



 *



 授業が終わり次第、俺は一年五組の教室へ向かった。

 一年五組といえば、確か横谷が担任だったクラスだ。

 一年二組は、エレーナが今は副担任だった先生が担任に変わったと言っていた。

 その代わり、鏡先生が副担任になったと……

 ってことは————


「……おっと、どうした? 小泉」


 教室の前まで来た時、ちょうどタイミングよくドアが開いた。

 驚いていると、教室から出て来たのは道井先生だった。


「ちょっと、佐藤に用があって……って、道井先生こそどうして?」

「どうしてって、僕はこのクラスの副担任だから」

「そ……そうでしたか」


 ————やっぱり、そうなるな。


「それで、佐藤って、どの佐藤だ?」

「え?」

「うちのクラスに、佐藤は三人いるんだけど……男子の佐藤か、それとも、女子のどっち?」

「あ、ああ、女子のどちらもです。ちょっと、聞きたいことがあって……」

「そうか。それなら一人は休みだ。佐藤小夏さんだけでいいかな?」

「は、はい……」


 道井先生自ら、小夏を呼びに行ってくれた。

 帰りのHRが終わった直後だったため、二年の俺に小夏が呼び出されたとで「小夏が男に呼び出された!」っと、若干騒ぎになたのは申し訳なく思ったが、小夏はすぐに俺が昨日保健室にいた男だと気がついたようで……


「もしかして……多花音のことですか?」

「あ、ああ。今日は休んでるんだってな?」

「はい、熱が出たみたいで……」


 本人がいないなら、聞いても意味はないだろうか?

 それでも、一応、聞いてみるか……


「俺、実は探偵部なんだけど……」

「え、探偵部?」


 小夏は探偵部の存在を知らないようで、とても驚いていた。

 生徒会があまり部活として推奨していない部活だ。

 一年生が知らなくても無理はない。


「実は、とある依頼を受けたんだけど、その依頼を遂行するのに、佐藤多花音の話を聞きたいんだ。UFOを見たって……宇宙人にさらわれるとかなんとか、言っていただろ?」

「……は、はい」

「もしかして、佐藤多花音は、八年前に起きたUFO少女誘拐連続殺人事件の、被害者なんじゃないか?」


 小夏は、事件の名前を聞いた途端に、顔色を変え、俺の腕を掴んで引っ張った。


「えっ……!?」

「こんなところで話せる内容じゃありません……こっちに来てください」


 すごい力で引っ張られる。

 まだ治っていない捻挫した足に痛みを感じながら、俺は引きずられるように人がいない空き教室へ入れられた。


 小夏は鍵をかけ、さらに周囲に誰もいないことをドアのガラスから覗き込んで確認すると、大きくため息をつく。


「先輩、いくらなんでも、あんなところでする話じゃないことぐらいわかりませんか? あの事件の被害者が……多花音が犯人に何をされたか、知らないわけじゃないですよね?」

「それは……そうだけど……」

「犯人は、誘拐した子供達に無理やり…………ああ、口に出すのも気持ち悪い。多花音は、周りに知られたくなくて、そのせいで両親は離婚して……————母親の旧姓にしたくらいなんです。それをあんな、誰が聞いているかわからないようなところで……」

「そ、そうだよな。すまない……」


 そうだ。

 それはわかっている。


「でも、今俺たちがこうしている間に、また幼い子供が被害にあっているかもしれないんだ。協力してもらえないか?」

「……また被害? どういうことですか?」


 俺は小夏に紫鏡の話をした。

 小学生が行方不明になっていて、実際に同じような被害者の遺体が見つかっていると。


 小夏は俺の話を聞いて、震えだした。


「許せない……やっぱり、まだ犯人は捕まっていなかったんですね」

「やっぱり……って?」

「9年前、私のお姉ちゃんも被害にあっているんです。命は助かりませんでした……犯人に酷いことをされて……山の中に捨てられて…………」


 恐怖で震えているのではない。

 これは、怒りだ。


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