雪女と在りし日の都市伝説(3) 


「実は、多花音は小さい頃に宇宙人に拐われたことがあるんです」


 それはまだ小夏と出会う前の話だそうで、ある日の真夜中、家の庭に謎の光が見えて外へ出てみると、そこに目の大きな宇宙人が立っていた。

 そして、気づいたら多花音はUFOへ連れて行かれ、宇宙人に体を改造され、何かを入れられたそうだ。


「必ずまた会いに来るって……その時、宇宙人に言われたそうで…………」


 にわかに信じられない話ではあるが、テレビの特集番組でこういう話はよく聞く。

 宇宙人はすでに何度も地球に来ているとか、アメリカ軍が宇宙人を匿っているだとか……

「信じるか信じないかはあなた次第」だなんて、付け加えられているけれど。

 幽霊とかUFOとか、都市伝説的なものは夏の風物詩だろう。

 世にも奇妙な物語やほん怖、世界まる見えとか……そういう系統の番組で何度も見たことがある。


 確か、芸能人でも宇宙人にさらわれた経験がある人とかいたな。

 嘘くさいとは思っていたけど、まさかそんな経験のある本人に遭遇するとは思ってもみなかった。


「それじゃぁ、その宇宙人が多花音さんに会いに来たってこと?」

「詳しくは知りません。でも、何日か前に言ってたんです。『あの時と同じ光を見たかもしれない』って……だから、もしかしたらそのことが関係しているのかもしれません」


 小夏は心配そうに涙を目に浮かべ、多花音の顔を見る。


「それに、ここ最近、誰かに後をつけられているような気もするって————多花音の家はお母さんが弁護士さんで忙しくて、ほとんどお家にいないので……私、心配で……」


 話しているうちに、涙は溢れて頬を伝う。

 冬野先生はボックスティッシュを小夏に手渡した。


「あなたも少し休んで行きなさい。心配しすぎるのも、体に良くないわよ」

「はい……」


 小夏は多花音が起きて歩けるようになるまで、しばらく保健室に留まった。




 *



 次の日、この日は1時限目から体育だった。

 でも俺は、足の捻挫により見学。

 鏡先生と同じく、新しくこの学校に来た体育教師の道井みちい雅人まさと先生は、死んだ山本先生とは違って、ゴリゴリのマッチョというわけでもなくどちらかというと、スラッとした体型の人だった。

 顔はどこにでもいそうな……歴史の教科書に乗ってる弥生人のような、薄い顔で、特にこれといった特徴もない。

 ただ、この暑いのになぜか長袖なのが気になった。

 暑くないのか聞いたけど、腕に火傷の痕があって、それを見られたくないんだそうだ。


「捻挫なら仕方がないな。とりあえず、その椅子に座って……記録係をやってくれるか?」

「はい、ありがとうございます」


 わざわざ俺のためにパイプ椅子まで用意してくれて、優しい。

「これが山本先生だったら、捻挫していようが強制参加させられていただろうな」と、佐々木が言っていた。

 山本先生より若い分、歳も近いし、昭和な教育方針とかもなさそうだ。


 今日の授業は、走り幅跳び。

 一人一人順番に飛んで、先生と陸上部のやつが長さを計って、俺はそれを記録していく。

 飛ばなくていい。

 めっちゃ楽。

 日陰だったらもっとよかったけど……


「いやぁ、道井先生めっちゃいいわ。山本とは大違い」

「そうだな、優しいし、アドバイスも的確だし」

「俺、50センチ伸びたわ」

「すげーじゃん」


 やはり、ちゃんと教員免許を持った人物の指導なだけある。

 噂によると、山本先生が抜けたホッケー部の顧問も、そのまま道井先生が引き継いだらしく、夏休みの終わり頃から練習が再開したそうだ。


 太鼓部の方も、あの凍死体事件で壊れた太鼓たちが、夏休み中に綺麗に戻って来たらしく、太鼓部は昨日から活動を再開している。

 昨日帰りに太鼓部の部室の前を通ったら、太鼓の音が響いていた。


「なぁ、佐々木、ちょっと聞きたいんだけどさ……」

「ん? なんだ?」


 自分の番が終わって、俺の横に立っていた佐々木のところに、隣のクラスの鎌田かまだ航大こうだいがやって来た。


「探偵部って、都市伝説の調査もしてくれるか?」

「……都市伝説? もちろんだ! 詳しく聞こう!」


 佐々木は瞳を輝かせ、鎌田の話に興味を示す。

 そこへ向井もやって来て、真面目に記録係をやっていた俺の耳にも、その話は嫌でも入ってくる。


紫鏡むらさきかがみの話って、聞いたことあるか?」

「紫鏡? ああ、あれだべ? 二十歳までにその名前を覚えていたら結婚できないとか、不幸になって死ぬとか……懐かしいなぁ……紫鏡といえば、ぬ〜べ〜じゃなかったか? イトコの家に全巻あって、読んだ記憶あるわ」

「そう、それ。俺たちが小学校の時にホラーとかオカルトが結構流行ってただろ? あの時は確か、ほら、ホワホワ花子さんとか、学校の怪談とか」

「うわ、懐かしい……!!」

「そういう話が今、妹のいる隣のS小学校で同じように流行ってるみたいなんだけど、様子がおかしいんだ」

「どんな風に?」

「放課後、道端に紫の手鏡が落ちていいて、それを拾ったら、必ず聞かないといけないんだ。『私、綺麗?』って……」


 うん……?

 それは、紫鏡というより、別の都市伝説じゃなかったか?


「それで、鏡の中の自分が笑顔だったら、何も起こらないらしい。でも、笑顔じゃなかたら、迎えがくる」

「迎え?」

「鏡の中に、引きずり込まれるって話だ。その手鏡にってわけじゃなくて、洗面所の鏡とか、風呂場とか……とにかく、大きな鏡に映ると、引きずり込まれる。それで、その話を聞いた俺の妹のクラスメイトが、実際、二日前から行方不明になっていて……次は私だって、妹が怖がってるんだよ」


 鎌田は眉を困ったように八の字にし、佐々木に依頼をする。


「妹を安心させるために、その紫鏡の正体を暴いてれないか?」




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