雪女と異端の文化祭(4)


 ツキガミ様の話は、この学校の生徒のほとんどが知っていた。

 特に女子の認知度は高く、帰り道でばったり一緒になった日菜子も、ツキガミの話はよく知っているという。


「私の友達がね、M高の集会に参加したんだって……それで、京平に紹介したんだけど、他にもいたのね」

「日菜子の友達も?」


 佐々木と日菜子は幼馴染のようで、下の名前で呼びあっている。

 中学に入る前までは親の実家に暮らしていたため隣同士だったが、今の家引っ越すことになって、中学では別々の学校だったそうだが、幼馴染であることに変わりはない。

 親同士が仲がいいこともあって、中学時代も家族ぐるみで頻繁に交流があったそうだ。

 日菜子は苗字で呼ばれるのを嫌がるため、俺も日菜子としたの名前で呼ぶようにしている。


「うん、四組の森口さん。同じ生徒会なのよ。今週の土曜日にうちの学校でやるってメールもね、その子に教えてもらったの」

「森口さんは、何を相談したんだ?」

「詳しくは知らないけど、恋愛相談をしたって言ってた。親にも言ってないことを言い当てられたから、ツキガミ様の力をすごく信じたみたいで……私にもツキガミ委員会に入らないかって、誘われたわ」

「そうだったのか……それじゃぁ、あのメールを佐々木に転送したのは日菜子か?」

「ああ、集会のお知らせ? そうよ、森口さんから私に届いたんだけど、私はツキガミ様とか別に興味ないし……でも、京介ならそういうの好きそうだなって。それにF中でも事件があったでしょ? 被害にあったのはうちの生徒会長の妹さんなの」


 会長は森口さんがM高の集会に参加したことを知り、激怒したそうだ。

 F中の事件は加害者も被害者も名前は報道されていなかったこともあって、森口さんも刺された被害者が会長の妹だとは知らなかったらしい。

 会長自身も、妹がイジメの主犯格であったという噂は寝耳に水だったそうで、包丁を持ち出した女子生徒は全てツキガミ様の言った通りにしただけだと主張している。


「会長にとっては、可愛い可愛い妹でね……よく自慢してたわ。会長の家は学校のすぐ隣だったから、あの子がまだ小学生だった頃から、有名でね。シスコンだってからかわれてたりもしたけど……仲のいい三兄妹って感じだった」

「三兄妹?」


 うちの生徒会長には、妹が二人いるらしい。

 一人は、F中で生徒会長をしていて、今回刺された被害者。

 もう一人はうちの高校の一年生で、演劇部に所属しているそうだ。


「特に一番下の妹さんを可愛がってたから……そんな妹がイジメをしていたことは信じられないみたい。ツキガミ様のことも探偵部に調べて欲しいって依頼したくらいなんだから」

「え……? 探偵部に依頼したのは、会長だったのか?」

「そうよ? 京介から聞いてない?」

「……聞いてない」

「その見返りに、探偵部の発表会に時間取ったのよ? 文化祭で」


 日菜子の話によると、ツキガミ様の実態を暴いてくれたら、文化祭の舞台に探偵部として出してくれるという話だったようだ。

 生徒会は探偵部を正式な部活とは認めていない節がある。

 できれば部員数を減らして廃部にしたいと考えているそうだ。

 だから、俺が転校して来た時にも日菜子は探偵部の名前は一切出していなかった。


「先先代の部長と当時の生徒会が揉めたらしくて、それ以来、探偵部はないものとして扱うようにっていう……暗黙の了解といか慣例が生徒会ではあってね」


 その慣例を破ってまで、会長はツキガミ様の実態を暴くように探偵部に依頼したそうだ。

 だから、あんな時間に体育館でステージが用意されていたのかと、納得がいった。


「それじゃぁ、やっぱり小泉くんも土曜日の集会に参加するの?」

「まだわからないけど……実態を知るには、それが絶好のチャンスだとは思ってる」


 土曜日の集会まで残り三日。

 どうすべきか、まだ決まっていない。


 とりあえず、佐々木が知り合いのサイバー犯罪対策室とかいう組織に所属している刑事さんに頼んで、メールの発信源をたどるとはいっていたが……


 ツキガミ委員会のサイトの問い合わせのページには、フリーのメールアドレスのみが記載されていて、住所や電話番号は載っていなかった。

 コンタクトを取るには、掲示板に書き込むかそのメールアドレスにメールを送信するしかない。

 神谷先輩が取材をしたいと書いてメールを送っていたが、返信がくるのはいつになるかわからない。



 ところが、その日の夜、不審なメールが俺のケータイに送られて来た。



 ==================


【件名:K高校探偵部の皆様へ】


 ツキガミ委員会にご興味がおありのようで、痛み入ります。

 我々は、信者の皆様の願いを叶える力添えをしているのみでございます。

 ツキガミ様のお力は偉大です。

 しかし、その力を知らぬ不届き者は愚かにもツキガミ様のお力を否定しようと疑いの目を向けられます。

 ぜひ一度、集会にお越しください。

 ツキガミ様のお力を直に感じてください。

 近々ではご存知の通り、7/21(土)午後8時頃、K高408教室にて、集会いたします。

 白いハンカチをお持ちになってお越しくださいますようお願いいたします。


 ツキガミ委員会


 ※なお、このメールはご覧になった後、自動的に削除されます。


 ==================


「……自動的に削除……?」


 メールを見て俺がそう呟くと、俺のケータイは本当に自動で動き、俺はボタンに触れてもいないのに、メニュー機能が表示され、削除が選択されてしまった。

 ゴミ箱の中からも、消去されていた。


「な……なんで!?」


 怖くなってすぐに佐々木にこのことを電話で伝えたが、佐々木も今まさに同じ現象が起きたと電話口で驚愕している。


『オレも触ってない。読み終わって……そしたら急に動いて————』

「お前も?」

『オレたちもしかして、とんでもない事件に首を突っ込んだのかも……』


 そうかもしれない。

 その時、ちょうどテレビでは世にも奇妙な物語のあのエンディングが流れていた————



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