雪女と異端の文化祭(3)
「よ、よろしくお願いします。一年二組の速水
放課後、速水は探偵部の部室に来た。
部室には俺、佐々木、向井に加えて、普段あまり顔を見せない三年の
神谷先輩はこれで見えているのか謎なくらい、前髪が長い。
頬骨のあたりまで前髪で覆われている。
俺からは完全に神谷先輩の目は見えていない。
前に一度佐々木に理由を聞いたら、神谷先輩は目にかなりのコンプレックスがあるらしい。
知らずに夜道で出会ったら、幽霊かと思うだろうな……。
一年の二人は、垂れ幕の制作に遅れが出ているようで、今日は顔を出せるかどうかわからないらしい。
「それで、ツキガミ様ってどんな感じ? 噂通り、若い女?」
「女? 私は男だって聞いたけど?」
「え? 自分は結構なお婆さんだって聞きましたけど?」
みんな、速水のするツキガミ様の話に興味津々。
「えーと、とにかく先ずは、速水の話を一回聞こうか。速水、悪いんだけど保健室で冬野先生にした話、もう一度してもらえるか?」
「は、はい。わかりました。小泉先輩」
速水は保健室でした話をそのまま探偵部に聞かせた。
ただ、新聞局に好きな人がいるという
おそらく、いや、多分、向井がいるからだ。
新聞局に好きな人がいるなんて話したら、一体誰のことか根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
それに、俺の予想だとおそらく……
「すみません、遅くなりました!」
「お疲れ、ありさ」
「しょーちゃん……ありがとう」
遅れて来た一年の広瀬は、あの凍死事件から数日後、向井の彼女になった。
一緒に爆弾の恐怖にさらされて————吊り橋効果というやつだろう。
それがきっかけのようだ。
二人の拘束を解いたのは俺なんだけど……
まぁ、助かったのは冬野先生の華麗なシュートのおかげか。
とにかく、速水が好きだった新聞局の先輩というのは、この向井のようだ。
目の前でイチャイチャしてる二人を見せられるのは
速水にはとにかく、どうすればこの祟りというか、呪いを止められるのか————今はそれが問題だ。
「探偵部は非科学的なものは信じない。必ず何か仕掛けがある。その謎を解き明かすべ」
佐々木は速水の話を聞いた後、黒板にツキガミ様についてわかっている情報を書き出した。
ツキガミ様
夜の学校で集会
巫女らしき女(男との噂もあり)がツキガミ様を降臨させて悩み相談
相談者の個人的な情報まで知っている
(部屋の中にあるもの、学校や部活のことなど)
明かりはロウソクのみ
ケータイ等の電子機器は儀式の際使用不可
狩衣に狐の面の人物が2〜3人
巫女が1人
顔を見ると死ぬ
集会のメールには場所、日時、持ち物は白いハンカチの記載
「そもそも、疑問なんだが、夜の学校に勝手に入っていいわけがないよな? 許可は得てるのか?」
俺はまず第一にそこが気になった。
集会は夜の学校で密やかに行われている。
学校側の警備体制は一体どうなっているのか……
うちの学校なら、夜間担当の用務員さんが見回りをしているらしいが……
「そうなんだよ。まずはそこが不思議で……M高の集会に参加した人からの情報によると、学校側は儀式のことを何も知らなかった。それに、今週の土曜日にうちの学校でやるって話になっているから、先生に聞いてみたんだけど、誰もそんな話は聞いていないって」
そもそも、そんな怪しい集会を学校側が許可するはずがないと、佐々木は続ける。
「それに、父ちゃんから聞いた話じゃ、M高の集会より前にF中で傷害事件があったらしい。ひどいイジメを受けていた女子生徒が、ツキガミ様のアドバイス通りにしたって言っているんだ」
「ああ、その話なら知ってるわ。私の弟がF中の生徒なの」
神谷先輩の話によると、その女子生徒はツキガミ様に集会でイジメのことを相談し、『殺さなければ、自分が殺される』と言われたそうだ。
彼女は言われた通り包丁を持って学校へ。
そして、イジメの主犯格であった生徒会長の体を複数箇所刺した。
男性教師が止めに入ったが、その教師も手や腕を刺されている。
二人とも一命はとりとめたが、現在も入院中だ。
「生徒会長、私も会ったことがあるけど、すごく優秀で教師からの信頼も厚かったそうよ。でも、裏でかなりめちゃくちゃやってたみたい。刺された教師も、セクハラで有名なの。指導だとか言って、お尻を触られたとか……で、警察が調べたらその教師のケータイから女子生徒の盗撮写真や動画が山ほど出てきたんだって」
しかも、それを売って小銭を稼いでいたらしい。
どうしようもないクズ教師だった。
「ツキガミ様の話が広まりだしたのって、去年の末ぐらいからだよね? 私のところにも何度かメールは来てた。怪しいから開かずに削除しちゃったけど……。特に、女子の間じゃ本当によく当たる占い師って感じで……アドバイス通りにして恋が実ったり、受験に合格したって話が多かったけど、ここ最近になってなんか物騒な感じになって来たわよね」
「父ちゃんが言ってたけど、警察の方でも動き始めてるみたいで……なんか反社とかが絡んでるんじゃないかって噂もあるらしい」
実は俺には親戚で神職に就いている人がいる。
ツキガミ様について、一応聞いてみたが付喪神の一種ではないかと言われた。
世の中には、そういう類のものが見えたり聞こえたりする不思議な力を持つ人は確かにいるが、大抵が偽物だそうだ。
本物なら、テレビやネットで話題になるようなものではない。
降霊術やら除霊やらは相当疲れるそうで、できればやりたくないのが本音だそうだ。
噂になって、除霊して欲しいなんて立て続けに依頼されたら体がもたないとか……それが本当かは知らないが、本物の能力を持っている人は自分の力を誇示したり広めようとはしない。
そういうのは大抵、金儲けのための詐欺だと言っていた。
「相談料は取らないんだけど、その代わりご利益があったらツキガミ様のサイトに書き込みを必ずしないといけないみたいよ」
神谷先輩はノートPCを立ち上げると、ツキガミ委員会のホームページを開いた。
背景の真っ黒な画面に、白い文字、それから速水が見たという狐の面の画像が載っている。
トップページのアクセスカウンターは30万を超えていた。
掲示板をクリックすると、確かにツキガミ様に対する感謝の書き込みで溢れかえっている。
【志望校に合格できました、ありがとうございます】
【やっと彼氏ができました! これからも、応援しています】
【おかげで、夫有責で離婚できました。ありがとうございます】
【子供を授かりました。ツキガミ様のおかげです】
10代から20代の若い層からの書き込みが多い。
そして、必ずその一つ一つにツキガミ委員会から返信がついている。
そこに貼られていたリンクをクリックすると、有料会員の登録ページに飛ぶ。
「……会費一ヶ月、三千円で、会員数は現在、5032人……?」
単純計算で、一月1500万円以上の稼ぎになる。
見ている今も、また一人増えて、5033人と表示が変わる。
これは……かなり、きな臭くなって来た。
「会員になると、ツキガミ様の力が宿った水や壺、
怪しいにもほどがある。
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