第3話

 段々、腕に乳酸が溜まってくると共に力が入らなくなってきた。


「あー!!もうダメだー!!」


 壁に張り付いていた美々がマットへと転落したが、幸い柔らかいクッションのおかげで痛くはない。


「いいね、いいね。リアリティーある白熱の映像が撮れたよ」


 側でスマホで撮影していた小恋がテンション上がっている。


 ここは学校の体育館の片隅にあるボルダリングが設置されている箇所。放課後に早速登って撮影を開始した。


 最初はどちらが登るかで少し揉めたが、小恋が最新のスマホでカメラの性能が良いものを持っているということもあり、彼女が撮影係、私が演者ということで収まった。


 ということで、ボルダリングの撮影をしているのだが、いざやってみると辛い。腕は痛くなるし、足はガクガクだ。


 こんな状態にも関わらず、小恋は尺が短いからと言って、追加での撮影を要求してきているので、渋々、最後の力を振り絞って登る映像を撮った。


「あー!!もうこれ以上無理」


 心の底から疲れ切った声を美々は口から吐き出した。小恋は「お疲れさま」と言って労ってくれた。


 とりあえず初回の作品としては案外上手く撮れた。後は編集でいかに仕上げるかになってくる。


 小恋が学校から借りた機材を返却しに校舎へ戻ったので、美々も着替えのために戻ることにした。


 廊下を歩いていると、ボルダリングの疲労が足に来ているらしく身体がよろけてしまった。


 危ないと思って手をついた先に柱から突き出ていたものがあり、手を刺してしまった。


 刺した感触による痛みにより思わず声にもならない音が口から出る。刺した部分を見ると血が吹き出してきている……と思ったが、どうやら様子が違う。


 赤い血ではなく、別の色の液体が流れ出ている。


「ええっ!何これ!?」


 廊下の向こうから小恋が心配な顔をして駆け寄ってきてくれているのが見えた。「やばい隠さないと」と思いながら、必死に頭を回転させて言い訳を考えたが、とっさには良いものが出てこない。


「足にきちゃった?大丈夫?なんか地面が濡れてるから気をつけて」


 小恋が差し出した手に引っ張られて美々は身体を起こした。


「ごめん、ごめん。バランス崩したみたい」

「もう、被写体なんだから気をつけてよ」


 小恋に助け起こされた美々は手をよく見たが、血が出た形跡は無く、痛みも感じなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る