第38話 天才、マージョリーたん

「シノさん!? よくも!」


 イーデンちゃんが怒りを爆発させた。ゼットさんを、Zの字に折りたたむ。小型魔導砲ショート・マギ・ランチャーを形成する。だが、【アルカナ・フラッシュ】を撃ったばかりなので、チャージに時間がかかっている。


「こちらもいきます、ダテさん!」


『わかった! 【魔導砲マギ・ランチャー】発動!』


 大小の光芒が二本、時間差でゲミュートに迫った。 


「グッ!? テレポー……」


【テレポート】を発動して、ゲミュートは逃げようとする。


「させない」


 ゲミュートの足首を、フィゼが召喚イカの触腕で掴む。


「しまった!」


 逃げそこねながらも、ゲミュートはマージョリーたんの砲撃を身体を捩っただけでかわす。だが、その地点にはイーデンちゃんの放った魔導砲が。


「ぐはあ!?」


 魔導の光芒が、ゲミュートの肩に突き刺さった。右肩から先が、閃光によってチリになる。


 イーデンちゃんのチャージの遅さと砲撃の軌道まで読んで、的確にゲミュートの回避ポイントに当てるなんて。

 つくづく思うが、マージョリーたんは天才だ。


「く、次こそは覚悟するがいい、イーデン!」


 肩を抑えながら、今度こそテレポートでゲミュートが逃げていく。


「シノさん!?」


 イーデンちゃんの【回復の杖】で、シノさんはどうにか持ち直した。しかし、息が荒い。


 フィゼは実の母に寄り添うことはせず、立ち去ろうとする。


「待って」


 シノさんに声をかけられて、フィゼはイカの召喚獣を止めた。


「どうして、イーデンを助けようと?」


「この子には、聞きたいことがある。主に、ケフェスについて。ゲミュートは、それを阻止しようとしていた」


 でも、と、フィゼはまた振り返る。


 イカの足が、縮む。あのイカは、跳躍でもするのか?


「もういい。聞くのがダルくなった。なにも知らなさそうだし。ケフェス本人に聞く」


「ワタシたちは、まだ敵同士?」


 虚空を見上げながら、フィゼはため息をつく。


「ケフェスはグレーデンにいるから、ワタシとまた会えるかもね」


 ボン、と、イカが足をバネにして跳躍する。

 手を伸ばしながら、そのままシノさんは気絶した。





「残念ながら、シノは戦線を離脱せざるを得ない」

 

 ゴドウィンから、報告を受ける。


 あれから丸一日経っていた。


 シノさんは、まだ傷が癒えていない。精神的なショックも大きいだろう。


『あのシノさん。フィゼを魔王との娘だって言っていましたが?』


「戦闘中に、細胞の情報を奪われただけ。魔王と添い遂げるような、おぞましいマネはしない。他の種族は、知らないけど」


 下腹部をおさえながら、シノさんは語る。


 魔王は、世界最強の魔道士であるシノさんの身体を欲しがった。だから、エルフの国は襲撃を受けたらしい。追い返したらしいが、シノさんは髪の毛を奪われる。その細胞から、フィゼが誕生してしまったそうだ。二度と悲劇を繰り返さないために、夫と子どもを国に置いて単身戦っているという。


「お前がいなくても、俺たち『雷鳴』は不滅だ」


「おうさ。お前の魂とともに戦うぜ」


 ゴドウィンとビリーが、不器用ながらもシノさんをはげます。


「心強い仲間ですわね」


『そうだね』


 こんな会話、ゲーム内ではお目にかかれなかったな。仲間同士、ずっとギスギスしていた。


 その不安要素を、イーデンちゃんは未だに抱えている。


「ダテさん、ケフェス嬢についても、気になることが」


『質問されると、思っていたよ』


 戦闘中、マージョリーたんはケフェスの素顔を見ていた。この質問は、避けて通れない。


「驚きましたわ。彼女の顔を間近で見たら、イーデンさんと瓜二つでしたもの」


「なんだって!?」


 マージョリーたんの言葉に、ビリーが驚きの声を上げた。

 他のメンバーも、驚きを隠せない。


「本当よ。ケフェスって仮面を被った女性なんだけど、仮面が外れたら、イーデンちゃんと同じ顔だったのよ」


「ええ。イーデンさまとケフェス嬢との間に、何があったのか。事情を知りたいです」


 ヴィル王女もアマネ姫も、ケフェスの正体を知りたがっている。


 隠し通すことはできないか。


『イーデンちゃんは、ゴーマ三姉妹の一人、ケフェスの腹違いの妹。つまり、魔王の隠し子だよ』

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