第39話 ネフィリム

 私は、イーデンちゃんの秘密を語る。

 イーデンちゃんが、ケフェスの腹違いの妹であると。


『ゴーマ三姉妹、いや四姉妹かな。実質イーデンちゃんが三女。フィゼのお姉さんにあたるよ』


「なるほど。ダテさん、ケフェス嬢の親とは、どういう方なのです? ケフェス嬢はかなりの実力者でした。我々が束になっても、互角かどうかと思うほどに」


『ケフェスの親は、【ネフィリム】、いわゆる【聖女】とか【勇者】っていう種族でね。高位の存在と人間との間に生まれた子どもなんだ』


 天上界の住人は、地上世界を監視するために、人間と交配して地上を見張るのだという。ケフェスの母親も、そうして生まれたネフィリムだ。


「じゃあ、ゴットフリートさまも」


『そうかもしれない』


 確かめる手段は、ないが。


「真実は定かではありませんが、ボクの母親である王妃は、ちょっと変わった人だったようです。ですよね父上?」


 ゴットフリート親子によると、グレーデン王妃は天女のような神々しさがあったらしい。もう、亡くなってしまったらしいが。


 ケフェスの母親は、ネフィリムとして絶大な強さを誇っていた。が、魔王との戦いに負けて、子どもを産まされたのである。


『魔王も深手を負って、強い配下が必要だった。それで、ケフェスの母親に手を付けたんだ』


 ケフェスの母親はネフィリムだったが、彼女の妹は人間だった。ネフィリムの力が、開花しなかったのだ。


「魔王だって、どうせ人間だった妹を盾にしてネフィリムを倒したんじゃねーか? だとしたら鬼畜だぜ」


 ビリーが、呆れている。


『戦うときはフェアプレーだったよ。ドワーフの仲間もろとも、倒したんだって』


 ちなみに、パーティを組んでいたドワーフが、次女メキラの母親だ。


「よく子どもなんて、産む気になったな? 勇者だったのだろ?」


 母親はケフェスを産んだ後、すぐに死んでしまったという。


「ネフィリムって、短命なのか?」


「自分の子どもに、すべてを託すんだって」


 メキラの母が、親代わりを務めたせいで、ケフェスは傲慢な性格になってしまったらしい。


『ケフェスは自分こそ魔王に愛されていると思っていたんだけど、恋をしていたのはイーデンちゃんのお母さんだった』


 怒りに任せて、ケフェスはイーデンちゃんのお母さんを刺してしまう。


 イーデンちゃんもろとも、母親は崖の下に。


『死んだって思われていたんだけど、イーデンちゃんは生きていた』


 母親はどうにかリシュパン領地の孤児院までたどり着いて、イーデンちゃんを託した。


「イーデンという名は、この世界では『希望』の意味を持ちます。お母様の希望を、一心に受けられたのですね?」


『そうだと思う』


 イーデンちゃんは孤児院で成長したが、とうとうケフェスに見つかってしまう。


『マージョリーたんがいなかったら、イーデンちゃんは死んでいたかも』


「なあ、ダテ。ワイバーンが街を襲ったのも、イーデンのせいだっていうのか?」


 ビリーが、質問を投げかける。


『そうだよ、多分』


「お前は知っていて、隠していたんだな?」


『うん。教えてしまったら、イーデンちゃんが生きる突破口がなくなってしまう』


「ああ。だよな」


 これは、ギスギスイベント不可避かなぁ。


 と思っていたら、ビリーがゴドウィンと会話を始めた。


「ゴドウィン、今後の作戦は?」


「グレーデン城の奪還だ。ゴットフリート様と共同戦線を張る」


 だが、城の前にはケフェスが陣取っている。攻略は難しいだろう。


「ケフェス打倒は、わたしだけで行きます。みなさんは、お城の奪還をお願いします」


「イーデン、本気か?」


「全部、わたしのせいなんです。自分で解決しないと。わたしがいたら、みなさんにご迷惑をかけます。わたしが魔族の血を引いているから」


「それがどうした!」


 ビリーが、イーデンちゃんの言葉に反論した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る