第29話 マージョリー邸にて夜食

 ゲームだと割り切っていたから、私は冷静に判断ができた。しかしキャラクターたちのリアルな生活に触れて、ちょっと考えが揺らいでいる。


 この世界の住人だって、生きているんだ。だから私は、必死で守ろうとした。


 とはいえ、彼らに少しでも心を通わせたか?


 デートだって、私にしてみればただのイベントだ。第三者の目で、観察しているに過ぎない。


 私が嫌っていたシナリオライターと、私のポジションって、なにが違うんだ?

 好き勝手シナリオをいじってるのなら、私だって同じだろう。結末を変えたいだけで。


 これじゃあ私、ただの指示厨じゃね? みんなの意見とか反映してないじゃん。


「ダテさん?」


『ん? ごめんごめん。ちょっと考え事を』


 考え事をしていたら、マージョリーたんの声が聞こえていなかった。


「どうかなさいましたか?」


『いやいや。デートの邪魔しちゃ、悪いなーって』


 私は石像を決め込んでいた。今の私は、マージョリーたんを彩る指輪に過ぎない。


「逢瀬なら、先程終わりましたが」


『え!?』


 リシュパン王との会食があるからと、デートは早々と切り上げたという。

 あちゃあ、考えすぎたか。

 デートイベント、ロクに見られなかった。


「お夕食もご一緒しますが、問題がありますでしょうか?」


『ないない。むしろ大歓迎』


「では、ジンデル邸にて夕食をいたしますわ」


『王都じゃないんだね?』


「はい。王様がお気を使ってくださったのです』


 現在ゴットフリート王子は、ゴドウィンたち『雷鳴』が王の護衛につき、マージョリーたんの屋敷まで向かっているという。


『私たちも行こう』


 すぐに、全員を連れて夕食会へ。





「アタイまで招いてくださるなんて、王様もジンデル伯爵も懐が深うございますね」


 夕食の場には、サブリナまで出席していた。


「あなたは我が王国随一の鍛冶屋だ。ねぎらいくらい、させてもらいたい」


「恐悦至極にございます。では、いただきまーす」


 こういうのは苦手だと思っていたが、借り物のドレスを見事に着こなしている。割と外面はいいのかもしれない。ワインを飲んだ後に「くーっ!」とか言わなければ。


「意外だろ、ダテよぉ。こう見えて社交界じゃあ、サブリナ姉は貴族様にモテモテなんだぜ」


 非モテ代表のビリーが、姉を称賛する。


「あんたがどこの貴族令嬢にモテないから、アタイが苦労してるんだろうがさ」


 ドンと、サブリナがビリーの胸を叩く。


 葬式みたいだった夕食会場が、この姉弟のおかげで華やぐ。


 夕食は孤児たちも一緒だ。

 カリスとともに、ビリーとサブリナが子どもたちと遊んでいる。


 そっか。国王は、この子たちを安心させたかったのだろう。


 やっぱりみんなは、ただのデータ集合体じゃない。ちゃんと生きている。考えているんだ。

 賑やかな夕食会の中、私は一人で今後の役割分担を考えていた。

 そろそろ、誰を離脱させるか考える必要がある。

 エリートを一点集中させず、効率的に戦場へ散らす必要があった。

 王都の防衛に集中させる部隊の編成も、考えないと。


「元気がありませんね、カリス」


 マージョリーたんが、かつての部下の異変に気づく。


「おっしゃいなさい、カリス。我々は戦士。感情を溜め込むのは、よくありませんわ。ここにはお父上もいます。なんでもいいから、話して」


「もったいなきお言葉です、マージョリーお嬢様。では、お言葉に甘えて」


 どうもカリスは、引退を考えているようだ。


「戦いに行く度に、孫が気になってしまいまして。一人、留守をしているので」


「問題ありませんわ。お友だちもできて、楽しくなさっています」


 カリスって、戦わないときはこんな感じなのか。


「なら、よいのです」



『よくないよ。カリス』



 だとしたら、私が伝えることは一つだ。


『カリスは、残っていいよ』


 私は、攻略チャートにないことを告げる。

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