第28話 出発の前に、王子と逢瀬

 案の定、ヴィル王女が抗議してきた。


「あたし【ガンナー】よ!? 中衛の要なのよ!?」


『王女が中衛なのが、本来おかしいんですよ』


 ヴィル王女は、後衛で強化魔法を私たちに唱える役に回ってもらいたい。

 狙撃が効果を持つ場面は、撤退するボスが居るときくらいだ。

 とはいえ、イーデンちゃんがあそこまで強くなったら、指示出しが主な役割となる。


『王女、本来ならあなたは悪堕ちして、魔王軍の手に落ちている状態でした』


 ここまで生き残ることは、ゲームの開発者も想定していなかったのだろう。レベルが上がるにつれて、習得するスキルが支援メインになっていく。


『実際、技能に関しても、バフを撒く役割になっていますよね?』


 ヴィル王女に、スキル表を見せてもらう。

 やはり【鼓舞:クリティカル率上昇】や【応援:バッドステータス回復】など、支援系が大半をしめていた。


「ダテにそこまで言われたら、仕方ないわね。後ろでおとなしくしているわ」


『ありがとうございます。その代わり、【統率】を常設しておきますね』


 技能所有者が存在しているだけで、攻撃力と命中率がアップする技能だ。


『王女には、後方支援しつつ、状況に応じてアタックを仕掛けてもらいます』


「はーい」


 カリスは、いつもどおりの運用だ。レベルの低い相手を敵を行動不能にする、【威圧】を覚えた。これでさらにザコキラーおよび、切り込み隊長として活躍するだろう。


「ありがとうございます、ダテ殿……」


『ん? どうしたの、カリス?』


 妙に、カリスの元気がない。


「ああ、いえ。過ぎたことを考えておりましてな」


 カリスが、苦笑いを浮かべる。


「話してごらんなさい。我々に隠しごとなど」


「いえ。大事な時期ですので」 


 マージョリーたんの言葉にも、カリスは引き下がった。


「ただ、おいとまをいただけると」


「どうぞ。今は休暇中ですから。お話がしたくなったら、いつでもいいなさい」


「もったいなきお言葉です」


 ひとまず、カリスの件は保留に。


 イーデンちゃんにも、マージョリーたんと同じ【倹約家】の技能を習得してもらう。魔法を六〇%の魔力で撃てる技能だ。当分イーデンちゃんは、防御も攻撃も受け持つから忙しくなる。


「わたしは、魔法剣士のような役割なんですね?」


『あなたはゆくゆくは、【聖女】になる存在だもんね』


【勇者】の女性版を、この世界では【聖女】という。


「聖女! わたしがですか!?」


『まあ、その兆しが出てくるのは、後々だけど』 


 聖女と言っても、ゲーム内のイーデンちゃんは『伝説のRPGの二作目に出てくる、足を引っ張る王子』ポジションなんだよね。大器晩成型なのも似ているし。


 ちなみに【勇者】は、いうまでもない。ゴットフリートだ。


 だから私は、彼に壁役をつけなくてもいいと提案している。シナリオ展開上、死なないってわかっているからだ。


 ゴットフリート王子には、ゴドウィン、ビリー、シノさんをつけている。護衛役ではなく、ゴットフリートにつられてやってきた敵を倒してもらう。王子は自分で自分を守れるので、防御は問題ないはずだ。


 マージョリーたんには、【魔力回復:小】を習得してもらう。魔力が少しずつ回復していく技能だ。ボスキラーとして、さらに長く戦闘ができるようにした。


 イーデンちゃんは【回復の杖】で、自分を回復できる。チャクラ技能はいらない。ゴットフリートにも、同じ道具と技能を持たせた。いきなり回復でレベルアップする姿を見たら、ゴドウィンたちもびっくりするだろうな。 


「あ、あの、ダテさん」


 顔を赤らめて、マージョリーたんが私に聞いてくる。


『ゴットフリート王子とデートでしょ? 行ってきなよ。私の許可なんて必要ないから』


「ですが、感覚を共有なさっているのでしょう?」


「あ……」


 だよねえ。私はドキドキしたりしないけど。キスされたりしたら、好きでもない相手の舌が入ってきちゃうわけだよね。うーん。


『今日だけ、私を外す?』


 私は今、整備中だし。ここは王都だから、問題ないと思うが。


「いいえ。そうではなく、ついてきてくださらないか、ご相談に伺ったのです」


 不安なんだな。しばらく会っていなかったし、仕方ないかも。


『わかったよ。マージョリーたん、一緒に行こう』


「ありがとうございます」


 やや町娘風の服を着て、待ち合わせしていた噴水広場に。

 王子も清潔感のある格好で、マージョリーたんをエスコートした。

 城下町を、ゴットフリートと回る。


「マージョリー殿下、あなたが危機だと聞いて、一刻も早くお会いしたかった」


 王子が、つないでいる手に力を入れる。


「お元気そうでよかった……なんて違うな。他人事のようですね。申し訳ない。適切な言葉が出てこず」


「いいえ。お気遣い感謝いたしますわ、王子」


 二人は、カフェで一休みをした。

 恋をすると、マージョリーたんってこうなるんだなぁ。

 視覚や味覚を共有していても、私とマージョリーたんは恋愛感情までは一致しない。


 平和だったら、こういう感じのデートが当たり前になるんだよね。

 だが私は効率を考えて、二人を別々に行動させている。

 

……これでいいのか?

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