第25話 マージョリーたんの婚約者

「ゴットフリート王子!」


 マージョリーたんが、赤黒ヨロイの男性の名を呼ぶ。


「姫殿下、ご無事で!」


 呼びかけに対し、ゴットフリートもマージョリーたんをみて安心したような顔に。


「ここはお任せを! 【アークサンダー】ッ!」


 ゴットフリートがロングソードを掲げて、大地の精霊に呼びかける。

 精霊たちが悪しき心を感じ取って、地面から放電した。雷撃は天を貫くほどに長大化し、辺りの魔物たちを蹴散らす。


「ぐっ! 来たか、ゴットフリートッ!」


「黒騎士ゲミュース! これ以上の冒涜は許さん!」


 暗黒騎士ゲミュースと、ゴットフリートが剣を交えた。

 相手はこのゲームの黒幕で、とてもじゃないがゴットフリートが対抗できるような相手ではない。


「くう、本調子ではないか!」


 しかし、暗黒騎士はどういうわけか押されていた。まだ、顔見せ程度のイベント戦闘か?


「フィゼ、あとは貴様がやれ」


 ローブの男が、捨てぜりふを吐いて逃げていく。


「は? 命令すんな。パワハラだし」


 ゴーマ三姉妹の三女フィゼも、攻撃してこない模様だ。


「めんどくさい。ジャマイカン、こっちも逃げる」


 フィゼは魔物たちの逃げ場を作りつつ、撤退する。

 こちらも戦力が安定していないため、深追いはしない。

 本格的な戦闘は、後日になるだろう。


「逃さん!」


「いえ、ゴットフリート。あのまま逃がすのが、いいでしょう」


 私が伝えようとしたことを、マージョリーたんが代弁してくれた。


 今の勢力は、いわゆる『無限湧き』である。あのまま連戦を続ければ、港が壊滅していた。


「敵が逃げていった先も、わかります。ここは泳がせてもよいかと」


「マージョリー殿下がおっしゃるなら」


 ゴットフリートは、剣を収める。


「アマネ王女、実は折り入って、お話がございますの。一度、リシュパンまでいらしてくださらないでしょうか?」


「そちらの方のご提案ですか?」


 気づかれていたか。


『あのー。ダテといいます。今後の作戦などをお話したいので、インテリジェンスアイテムの身分ながら、ご提案を』


「はい。喜んで」


 アマネ王女は、気兼ねなしに応答してくれた。


「ゴットフリート様は、お時間がございまして?」


「お供いたします。自国の事態が一段落したので。それに、意思疎通ができるインテリジェンス・アイテムですか。興味深いですな」


 こうして、ゴットフリートも交えて帰国することに。

 



 リシュパン王国に戻ると、あちこちでわずかに煙がのぼっていた。かなり激しい戦闘だったようだが、城はどうにか防衛できたようである。みんなも無事で何よりだ。


「いやあ! とんでもねえことになったな!」


 エルフの剣士ビリーが、ゴットフリートとアマネ王女の登場に舌を巻く。


「ごぶさたしております。王子。アマネ王女」


 ゴドウィンからのあいさつに、ふたりとも笑顔で返事をした。


「ゴットフリート。ご無事で」


「いえ。シンシア王妃こそ」


 エルフの魔術師であるシノさんと、ゴットフリートが、握手を交わす。


「あの、ダテさん? さっきゴットフリート様が、シノさんを王妃って」


 なにも知らないイーデンちゃんが、質問をしてきた。


『あーっ。あんまり面識ないもんね。シノさんって、二〇〇歳を軽く超えてんのね。子持ちなの』


「そうではなく!」


『シノさんの本名はシンシア・エルデン・ゲイティス。エルフの国の王妃なの』


「ホントですか? エルフの王妃なんて高貴な方が、どうして戦闘なんて」


 話が聞こえたのか、シノさんがイーデンちゃんに近づく。


「ワタシは王妃である前に戦士。それゆえに、ワタシに政治的価値はない。ある程度の自由は、主人から勝ち取った」


『ヒマだったんですね』


「そうともいう」


 シノさんはただのヒマつぶしで、魔族を丸焦げにしてしまう王妃様なのだ。


「王子。危ないところを、ありがとうございました」


 アマネ王女が、みんなを代表して礼を言う。


「あの、あちらのお方は、どなたですか? 王子と呼ばれていらっしゃいます」


 イーデンちゃんが、すっかり萎縮してしまった。お礼を言うべきかどうか、迷っているらしい。


『彼はゴットフリート・グレーデン。マージョリーたんの婚約者だよ』


「うわ、婚約者様!」


 大声を上げたイーデンちゃんに、ゴットフリートが気づく。


「キミは? 民間人だな。ケガはないか?」


「おおおお気遣いなく。ありがとうございます」


 ペコペコと、イーデンちゃんは何度も頭を下げた。


「いいのよ、イーデンちゃん。こんなヤツにお辞儀なんてしなくても」


「ええ? 随分な言いぐさじゃないか、ヴィルジニー・リシュパン」


「まあねーっ」


 ジョークだとわかっているためか、ゴットフリートもヴィル王女と笑い合う。


「けど、よかったの?」


 さっきまでおどけていたヴィル王女が、真剣な顔になる。


「なにがだい? 真顔なんて、いつものキミらしくないじゃないか」


「アンタんトコ、ヤバいんでしょ? 応援に行こうと思っていたんだけど?」


「ある程度、カタはついた。あのゲミュースと、交戦していたんだよ」


 ゲミュースがこちらに戦場を移動したため、ここで戦うことになったという。


「えっと、失礼ですが王女、グレーデン王国がヤバい、とは?」


「内乱よ」


 ゴットフリートを追い出そうと、国が動いているのだ。



(第三章 完)

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