第24話 インテリジェンス・ウェポンの特性

「盾が、剣に変わった?」


 私の先から伸びている金色の魔力刃を見て、メキラが驚きの顔に。


「そうです。【魔神の盾】は盾であり、武器にもなるのです」


 鉄壁の防御力を誇りつつ、『攻撃は最大の防御』というのが、ジンデル家の家訓らしい。


「シャクだね。このアタシが、ニンゲンごときにやられるなんてさ」


 腹を切り裂かれて、メキラが横たわる。身体が光の粒となって、消滅しようとしていた。


 マージョリーたんが、大幅なレベルアップをする。格上を倒したことで、大量の経験値が入ったのだ。


「妙だね。それだけの力量差がありながら、アタシを切り裂けるなんて」


「わたくしは……ぼヘえ!」


 マージョリーたんが、膝を折る。脇腹には、メキラの剣が刺さっていた。


「回復、していないだって!?」


「ええ。あなたの剣は、わたくしの脇腹を貫いていました」


 剣を腹から抜き、マージョリーたんが倒れ込む。


「マージョリーさん! 待ってて。今すぐに」


 イーデンちゃんが、マージョリーたんを回復する。


「はあ、はあ。わたくしはこの戦いで、【克己こっき】という技能を得ましたの」


 瀕死の状態であればあるほど、攻撃・防御・回避・クリティカル率がアップするものだ。


「そ、それでも! ここまで強いなんてさ!?」


「わかりませんの? あなたが感じていらしたのは、イーデンさんの力ではありません。この盾の力です」


 そう。私が本来の力を開放したことによって、メキラを倒す力を得た。


「レベル……八〇だって?」


「インテリジェンス・ウェポンの恐ろしさは、『装着者の半分の経験値で、レベルが上がること』です」


 強敵と戦い続けたことにより、私は大幅にレベルが上っていたのである。経験値は、マージョリーたんが獲得する量の半分でいい。


 メキラはそれを感じ取って、後ろへ下がったんだよね。


「全部。ブラフだったってのかい?」


「ブラフ? わたくしたちの会話をそのまま聞き取っていらしたのは、あなたでしてよ?」


 イーデンちゃんを警戒してくれてよかったよ。さっき繰り出したサイドへの攻撃は、イーデンちゃんを狙っていたからね。


 マージョリーたんは、それに合わせればよかった。


「わたくしたちの作戦は、あなたがイーデンさんを狙うように仕向けること。切り札がイーデンさんであると思わせて、本命の【魔神の盾】であなたを倒すこと。それにより、わたくしと盾のレベルを上げることでした」


「はあ!? それじゃあアタシは、通過点にすぎなかったってわけかい!?」


 当たり前じゃん。


 これから先、どれだけの敵を相手にしなきゃいけないってのさ。


「あたしは、道具に負けるのかい。たかがアイテムの分際に、ここまでコケにされるなんて。だがあいつには、ゴーマの三女・フィゼには通じないよ。あんなヤツに魔族の将来を託すなんて、シャクだけどさ」


 捨てゼリフを吐き、メキラが消滅した。


 

――ミッションをコンプリートしました。

 ゴーマ三姉妹の一体を倒したことにより、クリア特典として、『レベル限界突破』を取得します。



『ふうう。これで一段落』


「ダテさん。限界突破とは、どういう意味ですの?」


『最大レベルの上限が上がったの』


 本作の標準レベルは、七〇が上限だ。


『もうマージョリーたんは、レベルがカンストしているの』


「カンストとは?」


『上限に達して、これ以上は強くならないってこと』


 この特典は、レベルマックスの先を超えることができる。


 ゴーマ三姉妹と戦えるダウンロードコンテンツは、レベルの上限を上げるために必須になる。


『でも、安心はできないよ。メキラは倒したけど、最終ステージになったらレベル九九で復活するから』


「そうですの? これは気を引き締めなければ」


 まあ、かなり強いから安心なんだけど。


「妙ですわ、ダテさん。魔族なら、インテリジェンス・アイテムの情報をご存知だと思っていたのですが?」


『ブリーフィングとか、出ていないんだろうね』


 情報共有していないのか、他の姉妹がさせていないのか、わからないけどね。

 ともあれ、これでゴーマ三姉妹を倒せるとわかった。

 妖怪軍団も滅びたし、万事解決と思うのだが。


 とはいえ、こちらが望んでいないのに、ダウンロードコンテンツの敵が現れるなんて。


 敵も本気ということだろう。


 そう考えていた矢先、港で爆発が。あそこはヴィル姫とアマネ姫が逃亡した先だ。


『アマネ姫の元に戻ろう!』


 港に向かうと、アマネ姫とヴィル姫が、ゴーマ三姉妹のフィゼに襲われていた。

 漆黒の巨大イカが、触腕から氷の矢を飛ばす。


「こしゃくな!」


 カリスが、太ももからマキビシを放射して、氷矢を破壊した。


「貴様の相手は、ワタシだ!」


 出たよ! ローブの男が!

 カリスの二刀流を、ローブの男が受け止めた。


「ふわああ。楽」


 黒いイカの上で、フィゼはあくびを噛み殺す。だが、彼女の余裕は一瞬でかき消えた。


「これ以上の狼藉は許さん! アークサンダー!」


 突如、大地に雷撃が降り注ぎ、姫たちやカリスの窮地を救う。

 雷撃を放ったのは、赤と黒のヨロイをまとった貴公子である。


『あああああ! 忘れてたあああああ!』


 私は、思い出す。


 このゲームには、恋愛要素があることを。




 マージョリーたんにも、恋愛要素の相手がいたことも。

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