第22話 アマネ姫にも、チート技能を

 私たちは、戦闘領域を大入道ギガンテスの胴体に移した。


「ダテさん、ここは歩きにくいですわ」


『そうだね。ヌメヌメしてる』


 マージョリたんが、動きづらそうにしている。


「うわ。加齢臭がすごいわね」


 群がるスケルトンを排除しながら、ヴィル王女が鼻を摘む。

 大入道は、脂汗をかいていた。おそらく、ゴーマ三姉妹の次女メキラとの激闘で疲弊しているのだ。大百足センチピードを召喚し続け、メキラを迎撃しようとしている。しかし、メキラを止められない。

 さすが、一人で世界を征服しようとしている女だ。強さが異常である。


「オラオラ!」


 メキラが、大入道の顔に剣を突き刺そうとした。

 だが、両脇から巨人が現れる。


「ワシは風神ボレアス。このスピード、止められますかな?」


 肌が青い筋骨隆々な巨人が、見栄を切った。


「オレサマは雷神キュクロプス! パワーこそ力!」


 雷をまとった大型巨人も、見栄を切りながら現れる。こちらの肌は黄色い。


 二体のマッチョ巨人が、メキラを蹴り潰す。


 かに見えた。


 メキラは両脚を伸ばして、開脚しながら巨人のキックを押し返す。ムチムチだったメキラの太ももが、ムキムキの筋肉に覆われている。


「な、妖怪軍団最強の我らを、魔族ごときが!?」


「じゃあアンタらは、大したことなかったってわけだねえ?」


 筋肉ダルマのような足を、メキラは軽々と弾き飛ばした。


「なんのこしゃくな!」


「まだまだ!」


 巨人たちは、拳でメキラを粉砕しようとする。


「しょうもねえって、言ってるんだよ!」


 メキラは、二本ある大剣の石づき同士を重ねた。


「テメエらの攻撃なんざ、親父の一〇分の一の価値もねえんだよ! 【ブラッディ・スラッシュ】!」


 剣を風車状に回しながら、巨人たちの首を切り裂く。


「へん、口ほどにもねえな」


「な、なんと……」


 妖怪たちを倒された大入道が、明らかに弱っていった。

 あの巨人たちが、切り札だったのか。


「次はテメエだ!」


 大入道の頭部と、メキラが直接対決となる。


「クソアマごときに、この妖怪軍団が敗れるものか!」


「あたしが勝つんだよ! このメキラ様がさあ!」


 大入道が目から怪光線を放ち、メキラが双剣で受け止めた。


「バカな。たった一人で妖怪軍団をあっさりと」


 サクラダを取り仕切るアマネ姫が、腰を抜かす。


 そりゃあそうだろう。サクラダが総力を上げて対抗してきた魔物を、たった一人で倒してしまった。


「逃げましょう、ヴィル王女。彼女の力は、ケタ違いです!」


 これ以上戦況を長引かせて、民を危険に晒すわけにはいかない。アマネ姫は、避難を最優先した。


「そうね。撤退しましょう……マージョリー!?」


 私は、姫たちの前に立つ。


「わたくしが時間を稼ぎます! ここはわたくしに任せて先へ!」


『カリス、姫たちを連れて逃げて。ここは、私が食い止める!』


 もう、魔物の追加もない。姫は、カリスに任せて大丈夫のはず。


「ダテ殿! マージョリー様!」


「わたくしたちは、大丈夫ですわ。ねえ?」


 マージョリーたんが尋ねると、イーデンちゃんもうなずく。


『問題ありませんね、ダテさん?』


『平気。そのために鍛えたんだから!』


 現地でレベルアップとか、考えなかったけどね。


 とはいえ、可能だという証明はできた。

 となれば、やることはひとつ。


『マージョリーたん、一つ頼み事が』


 私は、マージョリーたんに知恵を貸す。


「アマネ姫。去る前に、この書物をどうぞ」


 姫に、マージョリーたんを介して技能を渡した。


 このときのためにとっておいた、クリア報酬だ。


「ありがとうございます」


「続けてお願いが、アマネ姫。わたくしとイーデンさんを、回復してくださいまし」


「承知しました。では……【天・流転アムリタ】!」


 回復によって、イーデンちゃんが全開した。


【天・流転】は、アマネ姫が元々持っている、回復スキルである。

 

――アマネが【治癒からの学び】によって、レベルアップしました。


 私の脳に、アナウンスが流れる。


「何でしょう? 強くなった気がしますね?」


「強くなったのです。あなたは回復魔法でも、レベルが上がるようになりまして」


 厳密に言うと、レベルが二三から六五にまで上がった。今後アマネ姫は、とんでもない大火力マスターになる。ヴィル王女の代わりに。


「すごいですね。これがさっきいただいた、【治癒からの学び】という技能なのですね?」


 これから、アマネ姫にはどんどん強くなってもらう。ヴィル王女の代わりに。


「では、急いで」


「はい。兵は民の避難を最優先してください! 動けるものは警護を!」


 アマネ姫が指揮をして、兵隊を動かす。 


「これでトドメだよ!」


 メキラが、大入道のノドに剣を突き刺す。


「ぐおおお!」


 大入道が、息をしなくなった。脂汗も引き、不快なニオイもない。大入道の胴体も、草原へ変化する。


「やっと逝ったかい。これで、邪魔者はいなくなった」


 メキラが、こちらに視線を向ける。


「回復が済んだかい? そっちも、準備万端のようだね? まあ、その間に暇をつぶさせてもらったけどさ」


 妖怪退治を、暇つぶし呼ばわりか。


 しかし、メキラならその感覚だろう。


「わかったんだろうね? アタシが退散しないってことは、アンタらを認めたってことに」


「随分と傲慢な方ですこと。能書きはいいからかかってらっしゃいな!」


「言うねえ。悪くないよ。じゃあ、アンタら殺してとっとと姫も潰すか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る