第21話 土蜘蛛戦

 大入道ギガンテスの左拳は、鋭い岩山に突き刺さったままである。岩から腕が抜けないようだ。


「ダテさん、モンスターの動きが、やけに鈍りましたわね?」


『たしかに』


 マージョリーたんと同じことを、私も感じていた。


 腕の大きさからして、すぐに抜けそうな気がするけど。


「大入道は、自分の身体を配下の妖怪に管理させているのです。その一体を倒したことで、魔力のめぐりが悪くなったようですね」


 アマネ姫によると、大入道は強い妖怪の集合体だという。たしかに、日本でも有名な妖怪ばかりだ。


 足を制御していた妖怪は退治したので、もうコイツは歩くことができない。


『エリートを分散配置しないで一点集中させるって、愚策中の愚策なんだけどね』


 本来は優秀な人って、各地に散らせて役割分担をさせる。その方が、戦局は長続きするから。なのに、大入道はそれをしなかった。


「権力争いの結果です。ああいう事態が起きてしまっては、実力者を手元に置くしかなかったのでしょう」


 すぐ近くで起きている妖怪大戦争を、アマネ姫が指差す。


『あー』


 共闘していたゴーマ三姉妹に、寝首をかかれたからか。


 そもそも次女のメキラは、チーム戦がめちゃ苦手なようだし。触ってくるものは全て敵って感じだ。


「あははは! やっぱ世界全部を敵に回すって、楽しすぎる! 全部、殺していいもん!」


 無数の大百足センチピードを細切れにしながら、メキラが高笑いをする。バトルジャンキーが味方にいると、ああなっちゃうよね。


「ああ、殺したい! 全部ぶっ潰してあたしが魔族の頂点に立つんだ! きゃははは!」


 メキラは、自分の強さに酔いしれている。ああいうのを「無能な働き者」っていうんだろうな。



 案外、妖怪軍団にメキラをよこしたのも、魔王が無能な自分の娘を殺すためだったのかも。



「ダテさん、こちらも来ました!」


 今度は、腕が盛り上がって、戦車のような大きさのクモが現れた。


「この土蜘蛛アラクネ、お前たちのスキにはさせぬ!」


 女土蜘蛛が、大量の小グモを生み出す。


「ザコはお任せを。マキビシ!」


 カリスが飛び上がって、小グモの大群へとマキビシを撃ち込んだ。

 その途端、土蜘蛛は大入道のアゴに糸をつけて飛び上がる。


『あ、やばい待ってカリス!』


 私の警告が届いたのは、カリスがマキビシを撃った後だった。


「くお!?」


 カリスのマキビシを受けて、小グモが大爆発を起こす。


「なんと!?」


『くうう。出たよ、マップ兵器殺し!』


 このクモ共は、撃墜されると誘爆を起こすのだ。


 親である土蜘蛛はそれをわかっていたから、ギリギリのところで誘爆を避けたのである。私たちを油断させるために。


「うざいわね! これでも喰らいなさい!」


 ヴィル王女が、【ケラウノス・ランチャー】を土蜘蛛本体に向けて放った。親玉を潰せば小グモも死ぬと、即座に判断したのだろう。推理と、自分の思考を即行動に転換できる適応力がすごい。このお姫様って、まさかゲーム脳なのでは?


 だが、小雲が【援護防御】でカバーする。またしても誘爆によって、周囲にダメージが。


 敵味方問わず、大打撃を負う。


『ごめん! ちゃんと伝えておけば』


「でも、構いませんわ。イーデンさん!」


 イーデンちゃんに、マージョリーたんが指示を出す。


『治療レベルアップを狙う? ここで?』


「他に手はありませんわ! お願いします」


 マージョリーたんに懇願されて、イーデンちゃんが回復魔法【エリアヒール】を使う。【アルカナ・フラッシュ】の治癒版だ。


 全員を治療したことによって、イーデンちゃんが大幅にパワーアップした。


「イーデンさん、ここはわたくしとあなたのダブルタンク職で、突破します! ついてらして!」


「はい!」


 マージョリーたんが私を、イーデンちゃんがゼットさんを正面に構えた。


「おおおおおおお!」


「やああああああ!」


 小グモの群れを、二人は盾で潰していく。


「ジャンプです!」


「はい!」


 マージョリーたんの合図で、イーデンちゃんが土蜘蛛の前で跳躍した。土蜘蛛へ、剣を突きつける。飛び道具を使ったら、また小グモが反応してしまう。接近戦しか手段はなかった。だが、届かない。


「ムダよ! ワタシには遠距離攻撃しか……なあ!?」


 イーデンちゃんの足元に、マージョリーたんが魔法を詠唱する。


「【トルネード】!」


 本来これは、全方位にダメージを与える魔法だ。


「血迷ったのかしら? 誘爆を引き起こす小グモのど真ん中で全体攻撃魔法なんて……な!?」


 イーデンちゃんがゼットさんの上に乗って、トルネードに巻き込まれていく。そのまま、イーデンちゃんは土蜘蛛のいる位置まで上昇した。


 マージョリーたんは小グモ相手に魔法を唱えず、イーデンちゃんを浮かせるために使ったのだ。


「くそお!」


 土蜘蛛が、大百足の死骸を掴む。死体をムチのようにしならせ、イーデンちゃんを叩き落とす気だ。


 だが、大百足はトルネードに飲まれて分解されていく。


「くらえええ!」


 土蜘蛛の眉間に、イーデンちゃんの剣が突き刺さる。


 なんてことのない、特殊効果もないただの一撃だ。


 しかし、あっという間に土蜘蛛がミイラのように干からびた。


 小グモたちが、自動的に爆発を起こす。


 自分から戦わない策士系のキャラは弱いって、相場が決まっているね。


 岩山が崩れて、大入道の肩から先が埋もれた。


 私は巨大化して、落下してくる岩石を防ぐ。



「おのれ!」


 岩を弾き飛ばしながら、大入道が仰向けになる。


『今度は、胴体がフィールドになるみたい!』

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