第三章 絶体絶命!? ライバルはDLCの三姉妹!

第17話 熱血指導

 私たちは、訓練場にいる。


 王宮の空いている領地に、私が提案して新拠点を建造してもらった。大丈夫なのか聞いてみたら、ヴィル姫が自分の領地をすべて分けてくれたのだ。ここは姫の家も兼ねている。訓練場も、姫の私物だった。


『うーん、あってよかった【大富豪】!』


 大富豪とは、戦闘時に獲得できる資金が倍になるキャラ技能だ。マージョリーたんが初期で所持している。


「ですわね。大量のお金を、敵が落としてくださいましたから。武器の改造費を差し引いても、お釣りが出ましたわ」


 新施設を建てたのは、王都の騎士とカリスがトラブルを起こさないようにするためだ。カリスは心得ているが、騎士たち全員もわきまえているわけじゃない。


「ひええ。知らなかったぜ。こんな裏技があったなんてよぉ」


 訓練風景を眺めながら、ビリーが口笛を鳴らす。ビリーは木の斧で、訓練用カカシを叩いていた。


『まあ、裏技中の裏技なんだけどね』


 普通に、私はビリーと会話をする。


 私はもう隠し事をせず、正直に話すことにしたのだ。ここがゲーム世界というのは伏せて。「魔神の魂が宿っている」という説得力は尋常ではなく、『雷鳴』チーム全員が信じた。すごいね、魔神の盾って。


「ビリー、あんた追い抜かれっちまうんじゃないかい?」


「うるっせ。サブリナ姉貴は黙ってろよ」


 ドワーフの整備士サブリナも、ここで作業してもらう。彼女は、「私は異世界から来た人間である」と話した。そっちのほうが興味が湧くみたい。


 今後は、ここで作戦や装備の見直しをする。ハリボテだが、私たちにとっては城より価値が高い。


「それはそうと、マージョリー様。本当によろしいのですな?」


 カリスが、マージョリーたんに何度も確認を取った。もう三度目だ。


「構わないと言っています。どうぞ!」


「では失礼して! へあ!」


 跳躍したカリスが、足に装着しているマキビシを撒き散らす。


 今のマージョリーたんは、盾で防がない。生身で受け止める。


「くうう!」


 マキビシが、マージョリーたんの身体に突き刺さった。飛び散った破片が、魔法で破裂する。皮膚が切れて痛々しい。ほぼ、致命傷に近かった。


「今です、イーデンさん!」


「は、はい! 【回復の杖:特大】!」


 イーデンちゃんが、いつものように回復を施す。マージョリーたんを癒やし、カリスの魔力を補給した。これで、一気にレベルが二五ほど上がる。


 これが私の編み出した、熱血指導だ。


『ふう。一時はどうなるかと思ったよ』


 私はサブリナの工房にて、改造中なのである。防御力と耐久値を、アップ中だ。時間がかかるため、マージョリーたんは単身指導を受けることに。


『お見事です、ダテさん』


 同じ釜の中で、ゼットさんがイーデンちゃんの様子を見ている。 


「それにしても、面妖な。レベル差があるほど、回復によって得られる経験値が違うとは……」


 カリスが、アゴに手を当てながらうなった。


 回復の杖は、治療される側が強いほど、治癒する側に大量の経験値が入る。


 先の戦闘で、マージョリーたんのレベルが五〇に近づいた。マップ兵器を駆使して、カリスに並ぶ強さに。それでも、王女が最も高レベルで、五四だが。


 そのレベル差を利用して、イーデンちゃんに回復役を任せた。そのおかげで、二〇近かったレベルの差が一気に縮む。


『いやいや。戦略のプロレベルになると、戦闘中に回復させてレベルを一気に上げるらしいよ』


 正気の沙汰じゃないから、私はやらないけど。


「なんという。日頃の鍛錬と戦闘で実績を上げて、戦士は強くなっていくものですぞ」


『いいえ。回復と補給です』


 訓練で戦闘力を身に着けたカリスには、理解できない世界だろう。私も、そう思うよ。


 戦闘中ではない今は追加アイテムで、カリスたちとも話せるようになっている。


 私たちインテリジェンス・アイテムは、なるべく戦闘中は会話をしない。インテリジェンスウェポンが装着者と対話できるなんて、敵に知られたくないからだ。


『でもよかったよ。絶対信じてくれないと思っていたから』


 無謀な私の作戦を、マージョリーたんは信じ切ってくれた。


「ダテさんの計画に、間違いはございませんわ」


 マージョリーたんが私を信頼してくれたおかげで、イーデンちゃんがバリバリレベルアップした。


 イーデンちゃんには、先の戦闘で得た「【おすそわけ】の書」を取得してもらう。他のキャラクターから欲しい技能を、コピーしてもらえるというスグレものである。


 分けてもらう対象は、マージョリーたんだ。


『コピーするのは、【大富豪】で』


「はい。わかりましたダテさんっ」


『欲しかったら、他の技能でもいいんだよ?』


 私は最適な攻略のために、必要なことをしているだけ。

 イーデンちゃんの感情までは、操作できない。


「平気です。わたしは特に欲しい技能もありませんし」


『だったら、いいよ。お願い』


 イーデンちゃんが、マージョリーたんと向き合う。


「ではマージョリーさん、【大富豪】を分けていただきますね」


「ご自由になさって」


 イーデンちゃんの技能に、【大富豪】が追加された。


『といっても、撃墜時に獲得資金が二倍になるだけだから。本当にお金持ちになるわけじゃないからね』


「わかっています。お金は大事に使いましょう」


 さて、あとは『クラスチェンジ』だね。レベル三〇まで上がっているから、イーデンちゃんもようやく主力になりそう。


「これで、わたしも【パラディン】になりました』


 元々、マージョリーたんをずっと【パラディン】で運用するつもりだった。防御寄りのタンクだからである。【ヴァルキリー】は、イーデンちゃんに任せようかと。


 しかしイーデンちゃんは、始めから攻撃寄りの大火力タンクだ。これ以上の火力は、レベルアップにて賄える。そう考えて、攻撃も防御も可能なオールラウンダーで運用することにした。


 またそうしなければ、マージョリーたんがずっと火力不足になる。攻めてに欠けては、守るものも守れない。攻撃は最大の防御と考えたのだ。


「報告、北東サクラダ列島、アマネ姫より、緊急のSOSを受信! 敵側は強力な幹部によって統率されているとのこと! 応援要求です!」


 出たな。新しい戦力のお手並みを拝見しようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る