第16話 ニンジャの処遇

 ゼノン公国の降伏宣言により、両国間の緊張はひとまず解けている。


 意外だったのは、マージョリーたんの攻撃に唯一まともに抵抗していたグリフォンの登場者だ。まさか、ゼノンの王子だとは。彼を拘束して事情を聞いたことにより、ゼノンは降伏せざるを得なくなった。


 ゴドウィンたちが戦っていた魔物の群れと連携をして、リシュパンを落とす作戦だったという。


 まあ、その魔物たちもゴドウィンによって片付けられたわけだが。


 あちらもネームド……つまり、名前付きの強敵クラスが大量に存在していて、苦戦したという。


 そうだよね。私も攻略に苦労したよ。主にパーティがギスっていたから、全然パーティが機能しなかったせいで。


 今なら、ゴドウィンたちともうまくやれそうな気がする。とはいえ、もうパーティは別働隊で固めるつもりだ。


 彼らがいい人たちだったということだけわかれば、それでよしとしよう。


『はあああ』


 マージョリーたんの屋敷の中で、私はため息をついた。


「ダテさん、お疲れのようですね」


『まあね。カリスはまだ牢屋の中?』


「はい。お孫さんは、お屋敷で保護しておりますが」


 自由の身だからどこへなりと行け、と、マージョリーたんはカリスに告げたのだ。

 しかし、カリスのほうが拒否した。けじめだからと。どのような処分も受けるという。

 いくら孫が捕まっていたからといって、リシュパンに被害を及ぼした事実は覆らない。犠牲者だって出ている。

 カリスの孫は、マージョリーたんの屋敷に住まわせることにした。残念ながら両親は殺されているため、実家には置いておけない。

 イーデンちゃんが、お絵かきに付き合っている。


「もう一度、説得に当たろうと思います」


『そうだね。黒幕の存在も気になるから、そちらも聞き出そう』


「はい」


 私たちは再度、王都へ。


「ずっとああなのよ」


 壁に背を預けながら、ヴィル王女がこちらに視線を向けた。

 カリスはずっと、牢屋で正座をしたままだという。

 鉄格子の向こうから、マージョリーたんはカリスへ話しかける。


「あなたの我々への行為は、不問にいたしますと申しました。他の仲間たちとも、話し合いは済んでおります。なのに、あなたはまだお出になりませんの?」


「孫が無事なら、もう思い残すことはありませぬ。はやく娘の側へ」


「バカをおっしゃいな!」


 鬼の形相で、マージョリーたんが鉄格子を蹴り飛ばす。


「本当に申し訳ないと思っているなら、軽々しく生をあきらめなさらないで! お孫さんが、あなたに死ねとおっしゃって!?」


「マ、マージョリー様」


 さすがのカリスも、目が点になっていた。


「死に場所は、ご自分で見つけなさい! ここから出て、自分で探すのです! 舞台だけなら、ご用意いたしますわ! わたくしと一緒に来なさい!」


 私に罵倒するよりよっぽど真っ当な叱責が、カリスに飛ぶ。


「ありがたきお言葉。しかと賜りました。このブリアック・カリス、炎となりてあなた様の刃となりましょうぞ」


 土下座をして、カリスは部隊加入を承諾した。


「ではマージョリー様、話し合いを」


「その前に、お孫さんと王都で遊んでいらっしゃい」


 イーデンちゃんが、カリスの孫娘ちゃんを連れてくる。


「おお、無事だったか」


 カリスは孫を肩に乗せて、あやした。


「監視付きですが、今日一日、あなたは自由です。こちらの準備ができるまで、王都を楽しんでらして」


「ありがたきお言葉。では、そうさせていただきます」


 孫を連れて、カリスは王都を楽しむ。


 私も、羽根を伸ばそう。


『ありがとう、マージョリーたん』


「なにがですか?」


『休暇は、私のためだよね?』


 正直、今回の戦いで私は凹みすぎた。考えることが増えて、まいっている。


 そんな私を見かねて、マージョリーたんは休暇を提案したに違いない。


「んまあ、なんのことでしょうか?」


 すっとぼけて、マージョリーたんはリンゴを切り分けた。イーデンちゃんたちと、みんなで分け合う。


 甘酸っぱい。マージョリーたんと味覚を共有しているから、リンゴの味が私にも伝わってくる。



 翌日、部隊にカリスが本格的に参入となった。


 誰も、イヤな顔はしない。


 ゴドウィンも含めて、王宮の応接室へ通す。応接間といっても、行商人などを呼ぶ簡易的な部屋だ。


 騎士の詰め所なんかに連れていくと、騎士たちからどのような目に遭わされるかわかったものではないからだ。カリスのために、別働隊用の個室がいるなあ。マチルダに作っといてもらうっと。


「それでです、カリス。あなたはイーデンさんを狙っていたとか聞きました。どういういきさつか、教えてくださらない?」


 マージョリーたんが、優しく問いかけた。


 だが、カリスは首をふる。


「理由はわからんのです。ワシのような末端に、ワケは話せないようでして。しかし、指示をしてきた相手はわかります」


「誰なのです。ゼノンの手のものですか?」


「魔族です。名前は」


 カリスが答える前に、私が答えた。


『アグニムでしょ?』


「ご存知なのですか、ダテさん?」


『うん。ラスボスの配下だよ』


 王都に敵対する集団全体をまとめる、実働部隊のリーダーだ。


(第二章 完)

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