第15話 令嬢、怒りのマップ兵器

『マージョリーたん、準備はいい?』


「はい。クラスチェンジ・【ヴァルキリー】、攻撃スキル発動します!」


 マージョリーたんが、【パラディン】から【ヴァルキリー】へとクラスチェンジした。こういうときのために、転職システムを温存していたのである。


 全身を覆い尽くしていたドレスアーマーは、軽装なものへと変化する。

 これで回復・防御特化型から、攻撃もできる職へとクラスチェンジできた。


『おお! すばらしき、おみ足!』


 マージョリーたんの服装が、大胆なスリットの入ったドレススカートとなる。中はオレンジのレオタードとは言え、豊満なマージョリーたんを包むには、いささか大胆すぎでは? だが、それがいい!


「おおおおおおお!」


『うわうわうわ!』


 マージョリーたんを、鑑賞している場合ではなかった! 


 盾であるワタシの周りから、光る翼が生えてくる。マージョリーたんの背中から、生えるんじゃないんかい!


『私の知っているヴァルキリーじゃないよ!』


「ですが、背に腹は変えられませんわ!」


 たしかに。羽根だけにね!


 さすがのカリスも、手を出せないでいる。

 そういえば、カリスはどうしていまだにゼノンについているのか? もうしらがみは、ないはず。


『待ってマージョリーたん。なんか、事情があるみたい!』


 カリスの首に、お守りのようなものが光っている。子どもが作ったような。


「マージョリーさん! 魔物の様子が変です!」


『イーデンちゃん、魔物について、なにか情報はない?』


 私が呼びかけると、イーデンちゃんが目を凝らす。


「増援部隊のずっと後衛に、女の子を抱えている魔物がいます!」


「なんと。ここには連れてくるなと!」


 カリスの手元が、緩んだ。


 そのスキに、私は敵の様子を見た。


 たしかに、ガーゴイルが小さい女の子を後ろ足で掴んでいる。大事には扱われていない。


「あなたの?」


「娘の子です」


 孫を、人質に取られているのか。


「許せません! カリス、見ていなさい! すぐに助けて差し上げます!」


「マージョリー様!」


「ですが、約束なさい! あの子を助けたら、我が部隊に入ると!」


「……仰せのままに!」


 カリスはなおも戦おうとしたが、観念して武器を収めた。マージョリーたんに、かしずく。


「さあ、そうと決まればゼノン退治です! あれだけの魔物を放ったのです。自軍の戦力はもうもたないはず!」


『だね! 資金も底をついているはずだよ!』


「魔物を蹴散らせば、ゼノンの被害はさらに増大するでしょう! 参ります!」


 盾に広がった羽の魔力が、増幅していく。


 同時に、マージョリーたんの身体が、ひとりでに浮き上がった。光の羽根は、それだけの質量を持っているのだ。


『うわっ! 私、浮いているよ!』


「羽根がありますからね。当然ですわ」


 私からすれば十分不思議な光景なのに、マージョリーたんは平然としている。ファンタジー世界の住人って強い。


「な、なんの光!?」「アレハ、ヤバイ!」「死ぬう!」『マジ天使!』


 魔物たちが、口々に危険を察知した。


『マージョリーたん、マップ兵器発動!』


 背中の羽を、マージョリーたんはドンドン伸ばしていった。魔物の集団を包み込めるほどの、輪を描く。


「覚悟なさいっ! 必殺、【ウイング・ブラスター】!」


 マージョリーたんが、飛んでいる魔物の群れへと突撃した。


「おごおお!?」「なんだと!?」「ウワア、ヤラレチマウ!」 


 聖なる翼の作り出した輪の中に触れた魔物が、破裂する。邪悪な魔力を砕かれているのだ。


 魔物の放つ魔力そのものに、ダメージを与えているのだ。機械で言えば、電気系統を直接攻撃されているようなものである。


 体の内側から魔石を破壊されて、魔物たちが次々と落下していった。強さなんて、関係なく。


「なんのこれしきいいいいいいい!?」


 リーダー格らしき大型のグリフォン型モンスターが耐え続けていた。が、とうとう全身が砕けて落ちる。乗っていた、ゼノンの将軍もろとも。


 下にいるゼノンの陣営も、あぜんとして上空を見ていた。


 ボーっとしているところを、ヴィル王女が仕留める。


「残ったのは、あなただけです! お覚悟を」


 翼を縮め、マージョリーたんは【魔神剣】を展開した。


「ぎはああああ!」


 ガーゴイルが、子どもを手放して逃げていく。

 子どもが、森の中へと落下していった。

 マージョリーたんが手をのばす。

 だが、子どもが手を滑らせてしまった。


『ダメ!』


「大丈夫!」


 先回りしていたイーデンちゃんが、木に登ってジャンプした。無事、子どもをキャッチする。


 しかし、このままではふたりとも。


『魔神の盾は、あなただけではありません』


 イーデンちゃんが、魔神の盾を広げて、二人を包んだ。クッションになって、二人の落下を間一髪で防ぐ。


 そこへ、カリスが迫った。


「女!」


 短剣の一本を、カリスがイーデンちゃんに投げつける。


 やはりカリスの狙いは……。


 だが、アイコンタクトをしながら投げていたが。


「は、はい! それ!」


 ゼットさんを構えて、イーデンちゃんは短剣をはじき飛ばした。


 ガーゴイルの脳天に、さっき跳ね返ったカリスの短剣が突き刺さる。


「見事なり」


 落ちてきた剣を、カリスは受け止めた。


「いえ。とんでもない」


 すべてが終わり、ふう、とイーデンちゃんが息を吐く。


「カリス、やはりあなたの狙いは、彼女でしたのね?」


 私は、マージョリーたんの助けを借りて、持論を展開した。


「はい。ワシの目的は、その娘の命でした」

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