第12話 チート技能【治癒からの学び】

 ヴィルジニー王女のわがままにより、私たちは王都周辺の魔物退治に駆り出されることとなった。


「はあ! やっ!」


 ホットパンツ姿のガンスリンガーが、飛び回るハーピーを二丁拳銃で撃ち落とす。あれがヴィル王女だ。二丁拳銃型インテリジェン・スウェポンの【ケラウノス】を、器用に操る。

 彼女の強さは、神話級に強いインテリジェンス・ウェポンの御業だけではなかった。


「せいや! 【ファイアー・ブリッド】!」


 木陰に隠れていたスケルトンを、狙いすました魔法弾で葬る。


 目のよさ並びに身体能力フィジカル、アンデッドも意に介さない魔法能力マジカルなど、どちらも一定以上の数値に達している。


「いいわねいいわね。どっからでもかかってきなさいよ!」


 しかも、魔物に囲まれても物怖じしないメンタルの強さときたら。なおさらハッスルしているし。


 魔物といえど、ゴドウィンたちが倒し切れなかった残党ばかりである。一部を除いて、さして強いモンスターはいない。


 それでも、ただの民衆からすれば脅威である。


 ヴィル姫は率先して、民を苦しめる魔物どもを迎撃するのだ。


「王女は猪突猛進と思わせて、しっかり状況も見据えていますの」


「すごいです!」


 私から見ても、王女は指揮官向けの性格だ。


 血の気が多くて、ケンカっ早いのではない。ヴィル王女は民を脅かす魔物を、放っておけないだけなのだ。だからこそ、彼女は王家から煙たがられ、民衆に愛されていた。


 大型のモンスターであるミノタウロスが、行く手を遮る。


「出たわね。これでもくらいなさい!」


 ヴィル王女が、二丁拳銃を融合させた。大型のライフルへと変形させる。


「いくわよ。【ケラウノス・ランチャー】!」


 王女のライフルが、雷撃を発射した。

 三メートル強はあろう巨体が、黒焦げになる。


「ざっとこんなものね」


 ヴィル王女は、をしまう。


「ダテさん、もうあの方だけで十分な気がします」


『だよねえ』


 正直、ここまで強いと思っていなかったなあ。誤算だった。

 あの勇姿を見て、「あれは一国のお姫様です」なんて言っても誰が信じるものか。

 とはいえ、あの強さも今だけなんだよね。


「ところでダテさん。イーデンさんを強くするというのは?」


『それなんだけど……あっ!』


 姫が、魔力回復用のポーションに手を伸ばそうとした。全力で止めてもらう。


『ヴィル姫を止めて、回復はちょっと待ってって!』


 私の声は、姫に届かない。代わりにマージョリーたんに説明をしてもらう。


「姫様、ダテさんから提案があるそうですわ。回復はお待ちになって」


「いいわよ。どうするの?」


 こうするのだ。


『イーデンちゃん、これを』


 私は、【回復の杖:特大】を、ヴィル王女に掲げるように提案した。


「は、はいっ。失礼します」とうなずき、イーデンちゃんは王女の胸元に杖の先を当てる。


 王女の魔力が、みるみる回復していった。



――イーデンのレベルが、一五、上がりました。スキル【援護攻撃】、【援護防御】を覚えます。



 イーデンちゃんが、一気にレベルアップする。


「なんだか、強くなった気がします」


 戦闘で負った傷や魔力の減少具合から、治癒大賞がどんな戦闘経験を積んだかを学び取るのだという。


『なるほど。そういう仕組みか』 


 マジですごいぞ、【治癒からの学び】は。

 これほどまでとは、思っていなかった。シナリオブレイクなんて、レベルではない。世界観さえ崩壊しかねなかった。


「それがあなたによる、作戦だったのね」


 王女からの問いかけに、マージョリーたんを介して肯定する。


「ネタバレになるから言わないでおこうかと思っていたんですが、あなたは残念ながら、スポット参戦ですわ」


「どういうことかしら?」


「話が進むと、強さが頭打ちになりますと、ダテさんが」


「えーっ!?」


 ありえねえ、って顔に、王女様がなった。


『後に手に入る聖獣の上から、バフや指示を飛ばす人になりますね。ですから、所持スキルも後に入れ替えになりますよ』


「ええ……そうでしたの」


 露骨にがっかりするよねえ。


『まあ指揮官枠が空いていますので、そちらでがんばっていただければ』


「指揮官枠って?」


『後方支援枠です。味方を鼓舞したり、バフを投げます』


 説明を受けても、ヴィル王女は引かない。


「あたし、前線に立ちたいんだけど?」


「ガマンですわ、ヴィル王女」


 見かねたマージョリーたんが、姫の説得を試みる。


「だいたい王女自らが先陣切っている時点で、おかしいのですわよ。あなたを守る兵のお気持ちを、考えたことがありまして?」


「でもでもマージョリーッ! 兵を引き連れて最前線で戦うお姫様って、かっこよくない? マージョリーだって、そう思うでしょ?」


「配下の毛が抜けますわ。自重なさってくださいまし」


「ぶー」


 マージョリーたんに説教されて、ヴィル様がブーたれる。 


「しかし、強いですわ。これでも、仲間は必要なのですね?」


『雷鳴』は、イーデンちゃんを入れてもまだ枠が余る。だが、そのポジションはキャラが毎回死んで、毎回入れ替わるのだ。なにその鬼畜仕様。


『うん。魔王軍は脅威だからね』


 なにより、脅威なのは……。


「王宮騎士が、苦戦しているわ。相手は、たった一人!」


 眼前に、先行していた騎士団も見えた。しかし、半数ほどが負傷して倒れている。


 騎士団を圧倒しているのは、シノビ甲冑に身を包んだ、ヒョウの顔を持つニンジャだ。獣人族特有の俊敏さと二刀流の剣術で、騎士たちを翻弄していた。


「ハッハーッ! この『黒橡くろつるばみのカリス』を止められるものはおらぬぞ!」


 黒橡のカリス。ベテランの兵士にして、我が小隊のエースとなる男である。

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