第10話 鍛冶屋のサブリナ
「ではマージョリー、キミはどうするんだ? 装備もチェック中だろ?」
「我々は別働隊を組織して、あなた方のサポートに回りますわ。ヴィル姫を警護しつつ、ゴドウィンたちが取り逃がした敵の群れを、撃退していきますわ」
ゴドウィンの耳元に、マージョリーたんが近づく。
「姫が納得するのか?」
「西のゼノン公国より、怪しい動きがあると。雷鳴が魔物討伐に向かったと聞けば、動くかと」
隣国ゼノンの領地は、リシュパンの三分の一程度である。魔王軍との戦争に乗じて、リシュパンに取って代わろうとしている野心的な国だ。魔物と手を組んでいるというウワサも。
「だが、ワイバーンをけしかけたのは、南の魔王軍だぞ?」
「彼らが、ゼノンと手を組んだ可能性がございます。ゼノンには『悪魔の騎士』がいますから」
「そんなやつが侵攻してきては、いくら雷鳴といえど止められん。倒すことはできるが、都市を守りきれるかどうか」
「ご安心を。わたくしにお任せを」
ゴドウィンの耳元まで、マージョリーたんは顔を近づける。
「その方が、しばらく姫をお城にとどめておけますでしょ?」
「う、うむ」
ヴィル王女に視線を向けて、ゴドウィンは頬を染めた。
あの二人は、つまりそういう関係である。なので、姫が悪堕ちすると、困るのだ。ゴドウィンがめんどくさくなる。身分違いってわけじゃないけど、どっちもにぶちんなんだよね。
「まあ、慎重なゼノンが我が国に攻め込むとは思えませんわ。とにかく、わたくしが姫を見張って差し上げましてよ」
「そ、そうか。ではマージョリー、キミを小隊長に任命する」
「心得ましたわ。このマージョリー・ジンデル。必ずやお役に立ってみせますわ」
マージョリーたんが、胸を叩いた。
みんなで、ゴドウィンを見送ったあと、私は胸をなでおろす。
「あれでよかったんですの?」
『よかった。イーデンちゃんが出撃すると言い出さなくて』
実は今のやり取り、私の提案なのだ。
エースである『雷鳴』チームを先行させて、私たち後発組がヴィル姫の護衛役を引き受けること。
「よろしいのでしょうか、マージョリーさん」
「ええ。ダテさんのお導きですわ。間違いはございません」
イーデンちゃんは不思議がっていたが、マージョリーたんの意志は固い。
「そうなんですか、ダテさん?」
『うん。出ていったところで、私たちでは大した戦力にならないもん』
『イーデンちゃんが姫の手綱を握っていないと、姫が勝手に動いて死んじゃうからね』
ゲーム内でも本当に、イーデンちゃんは頼りない。すべてダニーに食われるのだ。攻撃の要ではあるのだが、ことごとくダニーと戦闘面で被ってしまう。配置されている仲間のバランスが、悪いのだ。そのせいで、最後までロクにに活躍をしない。
シナリオにも絡めず、中盤までマジ空気なのである。
サテライト、ベンチウォーマー組と組んで、ようやくイーデンちゃんは活躍できるのだ。孤軍奮闘するともいうが。
「そうでしたの、ダテさん?」
「ほえええ」
理由を説明されて、イーデンちゃんも納得したみたい。
『彼らは超アタッカー。だから殲滅には向いているけど、護衛は難しいんだよ』
なので、護衛任務は防御面に優れた我々で担当する。
「エースチームはあえてオトリ、露払いとして扱うと?」
『乱暴な言い方をすると、そうなるかな?』
花は持たせているから、彼らの名前を穢すことはない。むしろ、今の段階で足手まといなイーデンちゃんは、こっちに行くほうが向いている。なんせ、マージョリーたんという最強の女騎士がいるからね!
「とはいえ、ダテさん。姫はゴドウィンすら凌ぐ実力をお持ちです。そんな彼女が序盤で亡くなるとは」
『道中でわかりまーす』
ここからは、教えない。ヘタにネタバレをして、フラグ回避のために単独行動されたらたまんないからね。
「それで、この装備なんだけどさ」
サブリナが、特殊な杖を私に当てる。
「普通に、しゃべってるみたいなんだけど?」
『ああ。その杖、マイクでしたか』
「あんたのことを調べてみたが、人間の霊が入っているね。しかも、質量が要塞レベルなんだけど?」
城とか軍艦レベルの武装が、私には備わっているらしい。
女神様がサービスで、私に装備をてんこ盛りしてくれたみたいだな。
「で、何をすれば?」
『改造してください。ヴィルさんの銃と、ゼットさんをできればフルで』
「ゼットさん?」
サブリナが、首を傾げた。
そっか、私たちだけで呼び合ってるんだっけ?
『イーデンちゃんの持っている、本家・魔神の盾のことです』
『このたび、ダテさんから、ゼットという名をいただきました』
ゼットさんも、会話に割り込む。
「名前をつけたんだね。いいじゃん。この子、あんたが名付けたことによって、あんたの力を少しだけ分けてもらっているよ」
ヒューッ。やったね。名付けって重要なんだなあ。
白く輝く金属を、サブリナが私に見せてきた。
「じゃあ、さっそく取り掛かろうか。ダテとか言ったね。アンタに教えてやろう。コイツは――」
『リシュパニウム鋼でしょ?』
私は、サブリナより先に答えた。
「よく知っているね?」
『マージョリーたんと、記憶を共有しているので』
実は、ウソだ。正確には、攻略サイトに載っている情報である。
「ああ」
せっかくだからと、イーデンちゃんをレクチャーする方向に。
「魔法石の一種で、モンスターの魂を閉じ込められるんだ。リシュパンでしか採れない」
リシュパニウムが採掘できる王都リシュパンを巡って、各国が争っている。
それが、このゲームの背景だ。
「……あんた、ホントは何者なのさ? この世界の知識を知り尽くしている。あたいら以上に」
これは、正直に話したほうがいいかも?
「彼女は、ダテさまは、この装備に込められた魔神ですわ!」
マージョリーたんが、伯爵を説得したときと同じセリフを、サブリナに言い放つ。
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