第9話 真の仲間は、お姫様
「お話がございます。ダテさん、ゼットさん。ここからは、お静かに願います」
しゃべるインテリジェンスアイテムは、珍しい。大抵はモンスターの意志が込められていて、自立兵器として動くのだ。壊れたとしても、再生できる。
それだけでもすごいのに、しゃべるとなるともう奇跡でしかない。
『はーい。アドバイスだけはしていいかな?』
「お願いします。我々を導いてくださいまし」
『それと、私もさまはいらないかな』
「ではダテさんとお呼びします。お願いしますね」
『はいはい。じゃあ、今朝話した打ち合わせ通り』
会話が終わるタイミングで、馬車が王都に到着した。
王都でも、イーデンちゃんはマージョリーたんのお屋敷と同じリアクションをする。
「イーデンと申します。孤児です。よろしくおねがいします」
みんなで、仲間たちとあいさつをした。
「俺はゴドウィン・ダリモア。侯爵で、剣士だ。この小隊のリーダーを務めている」
「よろしくおねがいします」
ゴドウィンは爽やかな笑顔で、出迎えてくれる。
もとのゲームではマージョリーたんを失ったばかりで、終始険しい顔である。なので、こんな表情は珍しい。
彼の武器が、ブウンと赤い光を放つ。彼のウェポンは天使が宿っているのだ。
「オイラはダニー・ベイン。ドワーフの戦士だぜ。よろしくな」
斧を担ぎ直して、ダニーが握手を求めた。利き腕で握手しようとしている。信頼している証かな。
「よろしくおねがいします」
イーデンちゃんも、恐る恐るながら応える。
ダニーの斧が、私に思念を送り込んできた。彼の斧には、フェンリルという世界を滅ぼすオオカミが宿っている。
「わたし、シノ・ゲイティス。エルフ。魔法使い。よろしく」
カタコトながら、シノさんがペコリと頭を下げた。これだけでも、進展しているのだ。誰かを介さないと、ロクにあいさつもしてくれない人だから。感じ悪い人だと思っていたが、単にシャイだったのか。
彼女が持っている杖に宿った魂は、ドラゴンだ。
人々は彼らパーティを、『雷鳴』と呼んでいる。名前だけで相手を屠る、最強の布陣だ。モンスターたちは、雷鳴の名を聞いただけで震え上がる。雷鳴に驚いて逃げる動物たちのように。
とはいえ、彼らの名前は覚えなくてもいい。私がパーティを組むのは、彼らではないからだ。
「あともうひとり、大騒ぎな人がいらっしゃるのですが……来ましたわ」
廊下をドタドタと走り回って、ポニーテールの金髪女性がイーデンちゃんに抱きつく。
「う、うわあ!?」
「いやーん! めっちゃかわいじゃーん。イーデンちゃんだっけ? あたしー。ヴィルジニー・リシュパン! ヴィルって呼んでね! ジョブは、ガンスリンガーなの!」
指をピース状にして、女性は敬礼をする。
「 姫様! 勝手に城を抜け出されては危険です。お城で待機なさいと何度も!」
ゴドウィンが、ヴィルさんをたしなめる。
「はーあ? あんたまで、つまんないことをいうのねー?」
そう、ヴィルさんは王女様なのだ。
このヴィル王女こそ、私たちの真のパーティである。しかし、戦闘面ではこの中でも一番強い。『雷鳴』リーダーであるゴドウィンですら、敵わないかも。
ヴィルさんだけは、どのルートでもイーデンちゃんの味方である。他の人たちはどのルートを進んでも、最後までイーデンちゃんによそよそしい。マージョリーたんと仲が良すぎたため、どう接していいかわからなかったのだろう。
だが今のところ、みんな割とフレンドリーと思っていいんじゃないか?
よかった。こういう世界線があって。
とはいえ、シナリオ展開では敵に操られて闇落ちする。それくらいの、貴重な戦力なのだ。
「で、マージョリー。このイーデンちゃんが、あなたの魔神の盾を操ると?」
「そうですわ」
「あなたの武装共々、調べさせていただいても?」
「ええ。そのために王宮まで参ったのです」
「よしよし。ではよしなにー」
城の内部にある鍛冶屋まで、ヴィル王女がマージョリーたんを案内する。
「いらっしゃい。弟が失礼をしなかった?」
メガネを掛けたショートカットの少女が、イーデンちゃんを見るなりフレンドリーに手をふった。ビリーにヘッドロックをして、ホッペタに巨乳を押し付ける。
「んなわけねえだろ。ほら、イーデンがキョトンとしているぞ。あいさつしろ」
「あはは。はじめまして。あたいはサブリナ・ベイン。ダニーのお姉ちゃんだぞ」
ダニーにたしなめられて、サブリナはビリーの首から腕を解いた。イーデンちゃんと、自己紹介を交わす。
「かわいいね。いかにも庶民! って感じで」
「オイラたちも、もともと庶民だけどな」
ベイン家は、平民から騎士となった家系である。
対してゴドウィンは王家筋に親戚を持つ侯爵家で、シノはエルフの貴族だ。
「サブリナ、この二人のインテリジェンス・アイテムを、調べていただけて?」
「お安い御用よ。あなたの任務までには終わらせるさ」
サブリナが、腕をまくる。
「任務とは?」
「南に向かう。近隣諸国に侵攻している、魔王軍との戦闘だ。我々『雷鳴』には、ヴィル王女を護衛する任務が下った」
ヴィル姫を守るため城にとどまるか、ゴドウィンに合流して戦闘に参加するか、二択を迫られる。
「イーデンさんはわたくしと、城の中で待機です」
「は、はい」
イーデンちゃんはマージョリーたんの小隊に組み込まれることになった。私のアドバイスで。
本来ならイーデンちゃんは、強制的にゴドウィン側として出撃させられる。
ただ、そうなるとヴィル姫様が魔物に殺されてしまうのだ。
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