第二章 新パーティは、お姫様

第8話 私のスタンス

 翌日、マージョリーたんに誘われて、イーデンちゃんは王都リシュパンへ。

 王都へ向かう途中、ワイバーンに壊された街に向かった。

 国民がマージョリーたんを称える。


「マージョリー殿下!」「キレイ! お姫様みたい!」「伯爵令嬢!」『マージョリーたんマジ天使!』


 街行く人が、みんな馬車に手を振っていた。


『おお、ゲームのとおりだ』


「みなさん、シュトーレンを持ってまいりました。いただいてください」


 先日焼いたリンゴのシュトーレンを、国民へ分け与える。


「横にいるかわいい子は誰だ?」「妹さんかな?」「どっちも素敵!」『マジ天使!』


 そばにいるイーデンちゃんも同じように讃えられた。


 イーデンちゃんは黙々と、シュトーレンを分ける機械になっていた。


「みなさん、大変でしょうけど、応援しております。我々は、魔物になんて負けませんわ!」


 右手を高々と上げて、マージョリーたんは国民を鼓舞する。


「ありがとうマージョリー様!」「まさに聖女!」『マジ天使!』


 すごい歓声だ。シュトーレンは、あっという間に片付いた。


「隣の少女もいい感じだな!」「女神様の御使いのようだ」『マジ天使!』


「どさくさに紛れて、民衆に混じっていませんこと、ダテさん!?」



 大絶賛を受けて、イーデンちゃんは余計に縮こまる。

 馬車は、王都へと近づいていった。

 王都でもマージョリーたんは、同じような歓迎を受ける。


『大人気だね。マージョリーたんって』 


「……ダテさん、あなたはこの国の文化などに触れられません。さみしくはありませんか?」


 マージョリーたんから、私は質問を受けた。


「こうして生きていられるのは、あなたの活躍のおかげです。なのに、あなたは称賛を求めていないですよね? 誰からも承認されない状況下で、あなたはつらくはないのですか?」


『全然』


「なぜです? 本来こうして迎え入れられるのは、あなたのはずです。なのに」


『そういうの、気にしないタイプなんだよね』


 あっけらかんと、私は答えた。


『文化や習慣、食べ物の味やニオイとかは、マージョリーたんと共有しているし』


 大体の転生モノは、現地の人に転生する。だから、文化を覚えることが必要だ。

 しかし私は、物質に転生しているため、マージョリーたんと意識と記憶を共有している。いちいち、現地の言語を覚える必要性もない。ぶっちゃけ、マージョリーたんとだけコンタクトを取っていればいい。

 現地の風習を覚えるなんて面倒なので、かなり私好みの転生だ。


『どうして、そんなに気を使うの?』


「初めてお会いするのに、あなたはここに馴染みすぎています。異世界転生に憧れをお持ちだったとしか」


『たしかにね。でも、私のケースはちょっと違うんだよね』


 ゲームの世界に住める。オタクなら誰しも憧れることだろう。

 けれど、私は別に関心がない。なんせ、クソゲーの世界だからね。どんな罠があるか、わかったもんじゃないし。

 マージョリーたんとも、この距離感が心地いい。密着してるけど、触れられない感じが。もし私がイーデンちゃんに転生していたら、攻略する頭なんて吹っ飛んでいただろうし。脇目も振らず、ひたすらマージョリーたんにベタベタしていたに違いない。それでは彼女たちにとって、私は邪魔な存在になるだけなんだ。


『私は、ゲームの世界に入りたいんじゃない。マージョリーたんを守りたいだけなんだよ』


 願いはかなったので、後はいかにこの幸せを維持するか考えるだけ。実践するには、いろんな人の協力が必要だろう。


 今は異世界の堪能よりも、マージョリーたん周辺の平和維持にリソースを割きたい。まあ、やってみるしかないな。


「ダテさんは、ご自身が強くなることに興味はございませんの?」


 マージョリーたんから、もっともらしい質問が飛んできた。


『……私さあ、現地のキャラが活躍しないお話って、違う気がするんだよね』


 たしかに転生者って、無双してナンボってところはある。


 とはいえ、シミュレーションRPGは協力プレイが華だ。

 そんなシステムに部外者がシャシャリ出てきても、なんかモヤるんだよ。


 いろんな作品がクロスオーバーするゲームでも、主人公はまったく育てない。好きな作品を推しまくる。たとえ弱くても、非効率でも。


 プレイヤーはあくまでも、プレイヤースキルが問われてこそだと思う。

 私にとって主人公はマージョリーたんなので、マージョリーたんを徹底的に活躍させたい。

 もちろん、イーデンちゃんも。マージョリーたんを引き立てる駒だなんて思っていない。みんな生きているからね。

 ゲームはゲーム、現実は現実だ。私は二次元に入りたいわけじゃない。二次元を守りたいだけ。


「わたくしにとっては、ダテさんこそ英雄ですわ」


『ありがとう。その言葉だけで、十分だよ』 


 王宮の、騎士団領が見えてきた。


「仲間の元へ、あなたをご紹介いたしますわ」


『ありがとうマージョリーたん。でもね。彼らとは一緒に行動しないよ』


「そうですの?」


『うん』


 私は、マージョリーたんに説明をする。


「ゴドウィンたちエースチームと組むと、イーデンちゃんがバッドエンドに直行する」と。

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