第21話 脱獄

次の日、ジョンは一睡もできずに朝を迎えた。

脱獄による期待と不安、それらが彼を興奮状態にし、とても眠ることはできなった。

起床後、朝一番で眠そうな顔のクリスが彼の居房を訪れた。


「眠れなかったのか?」

「おまえも?」


2人は互いに眠れなかったことを話題に食堂で朝食をとる。

食事のあとは労働だ。

眠っていない体での労働は堪えたが、ジョンとクリスの2人だけは脱獄決行の時間が迫るごとに緊張感が強くなるのを感じていた。


そして、労働のあとはシャワー。その後に夕食である。

夕食までの時間。2人は最後にもう一度作戦を確認し合う。

食堂には2人で出向き、いつもと同じように食事をとる。


食べ終わったあとはそれぞれが普段と変わらないように過ごし、周りに異変を感じさせないようにしていた。

ここからいよいよ作戦開始。


「俺、ちょっと医務室行ってくるわ」


クリスは食後に談笑していた囚人仲間たちにそう告げると刑務官へ体調不良を訴える。

それを少し離れた場所から確認するジョン。

クリスが医務室へ行ったのを確認したあと、ジョンは刑務官の交代の時間を待つ。


「来たな」


刑務官が交代のために囚人エリアのゲートを開けた瞬間。

ジョンは刑務官の後ろへ回り込んで肩を叩く。

それに反応して振り向いた刑務官の喉を思いっきり殴り、声が出ないうちにゲートの向こう側へ。


無事ゲートを抜けたあとは刑務官を締め落とし、すぐ近くにある掃除用具を収納する部屋へ刑務官を運ぶ。


「ヨシ!順調だ!」


刑務官の腰にぶら下がったカギを取ると、はやる気持ちを抑えながら静かに医務室へ。


「クリス!」


ジョンが医務室のドアを開けると、そこにはいるはずのクリスはおらず、代わりに何人もの刑務官がいた。


「は?」


ジョンは状況が飲み込めず、驚いた表情をしている。


「お疲れ」

「じゃあ、自分の居房に戻ろうか」


刑務官たちは驚いているジョンをあざ笑うかのように居房へと送り返す。


「いや、へっ?クリスは?」

「ここにはいないよ」

「おい!クリス!」


意味が分からない状況にジョンは混乱するもひとつだけ確かなことがあった。

それは脱獄が失敗したということ。


刑務官たちはまるでジョンが医務室に来るのがわかっていたかのような様子で、彼が驚いているのを面白がっているようにも見えた。

自分の居房に戻されたジョンは放心状態。

刑務官たちはそれを見てクスクスと笑っている。


「おかえり」


ジョンが顔を上げると、居房の中でタバコを吸うアーノルドが。

彼はジョンを見ると少し口元を緩ませ、どこか笑うのを我慢しているようにも見えた。


「お前か?」

「なんのことじゃ?」

「お前が漏らしたのか?」

「さぁ・・・」


アーノルドがそう言った瞬間、ジョンが飛びかかった。

だが、その場にいた刑務官たちがすぐに取り押さえると、彼は手錠をかけられてしまう。


「だから最初にいったじゃろ?ここにまともなヤツはおらんと」

「そいつ危ないから独房に連れてってくれ!」


刑務官たちはジョンを独房へ連れて行く。

再び薄暗い独房へ入れられたジョンはクリスの身を案じていた。

彼が医務室へ駆けつけたとき、クリスの姿は無かったが、床には血の跡があったからだ。


「クリス、無事でいてくれ」


ジョンは独房で1週間を過ごしたあと、元いた居房へ戻される。

そこにはすでにアーノルドの姿は無く、刑務官たちに聞くと別の居房へ移ったと教えられた。


「それともうひとつ、クリスはどうなった?」

「あぁ、医務室にいたあいつか?あいつは死んだよ」


ジョンはその言葉を聞いてまるで全身がカミナリに撃たれたかのような衝撃を受ける。


「なんで?」

「そりゃ脱獄しようとしたからだろ?」

「あとかなり暴れたからな、あいつ」

「静かになるまでみんなで殴ったら死んじまった」

「おまえも気を付けろよ!」


刑務官たちの言葉にジョンは突然意識を失ってしまう。

あまりにも強いショックを受けてしまったからだ。


彼が目を覚ますと手錠をつけられた状態で医務室のベッドに寝ていた。

医師が彼の意識が戻ったことを刑務官たちに伝えると、再びひとりの居房へ戻される。


居房に戻ったあとのジョンは悲惨だった。

一緒に脱獄するはずだったクリスの死。そして脱獄計画の失敗。

さらに収容所という息苦しい場所が彼の精神を追い込む。


「なんでいつも上手くいかない!」

「これで何度目だよ!」

「クリスは死んだ!作戦も失敗した!」

「アーノルドからは売られた!」

「ふざけんなよ!」


ジョンはどこまでも上手くいかない自分に絶望を感じていた。

何度やっても、誰とやっても、自分が思ったような結果が得られないことに。


後悔や悲しみ、怒りや憎しみなど、負の感情に包まれた彼は心と体がドンドン硬くなっていくのを感じていた。

気が付くと呼吸はまともにできなくなり、頭に昇った血はどうやっても下がらない。


「なんだこれ・・・、苦しい・・・」


ジョンは今まで感じたことのない心と体の変化にどうすることもできなかった。


「くそっ!一体なんなんだ!」

「まるで自分じゃないみたいだ」


頭の中には辛かった出来事が津波のように繰り返しフラッシュバックし、体は全身が力み過ぎて上手く動かせない。


「俺、壊れちまったのか?」


ジョンが自身の変化に戸惑っていると、突然どこかで爆発音のようなものが聞こえた。

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