第20話 脱獄計画

ジョンはアーノルドとの会話で落ち着きを取り戻す。

彼から暇つぶしの雑誌を受け取るとベッドに寝転び、ページをめくる。

そのとき、居房の入り口に男が立っているのが見えた。

その男はジョンが収容所に来てから2度半殺しにした男だった。


「ほんとうにすまなかった」


男はジョンのもとに謝罪をするためにわざわざ来たようだ。


「いや、さっきも謝ってもらったし、いいよ」

「そうか・・・」


男が居房を立ち去ろうとすると、ジョンが声をかける。


「お前、名前は?」

「クリス」

「俺はジョン」

「ところでクリス。なんであんな強引に喧嘩を売ってきたんだ?」

「・・・イライラしてたんだ」

「まぁ、そうだよな・・・俺も同じだ」


クリスは再び居房の中へ入ると、寝そべるジョンの隣に腰をおろした。


「ここで暮らしてるとイライラすることばっかでよ」

「なんせまともな人間の方が少ないからな」

「イライラをぶつけられる相手を探してたんだ」

「バカなことをしてすまなかった」


クリスは改めてジョンに謝罪。


「ここはストレスの塊のような場所だ」

「嫌なことはあっても良いことはない」

「お前も気を付けろ」


寝そべるジョンを見ながらクリスが忠告をする。


「お前はなんでここに来たんだ?」

「俺は上にいたときからストレスをため込みやすくてな」

「ある日、酒を飲み過ぎて思いっきりストレスを発散しちまったんだ」

「暴れたりしたのか?」

「その場にいたヤツ全員ぶちのめしちまった・・・」

「友達も、駆けつけた警官も」

「限界きて爆発しちゃった感じか?」

「そうだな・・・」


クリスは自分が収容所に入れられた経緯を明かすと、ジョンにも同じ質問を聞き返す。

クリスはジョンの話を聞いて驚いた。

身近にテロリストなんかいないからだ。


「でも、なんで国をひっくり返すとか、そんな大それたことをしようと思ったんだ?」


クリスの疑問にジョンは体を起こすと真剣な表情で国の在り方について語った。


「マジか・・・でも、それ筋は通ってるし、納得いくことも多い」

「俺たちは国のために使われてる奴隷だ・・・幸せを餌にしてな」

「そんなこと聞いたら俺も国をひっくり返すのを手伝いたくなってきた!」


ヤル気満々のクリスにジョンは下を向く。

自分も最初はエヴァたちと一緒に頑張った。

でも、どうにもならないことも知った。


ジョンはここに来るまでのことを思い出すと涙が流れた。

クリスはそっとジョンの肩を抱く。


「この国をひっくり返そうとしてもダメなんだ」

「俺は失敗ばかりで心が折れた。もう戦えない」


ジョンがどれだけ苦しんだのか、その表情からクリスにも彼の想いが伝わる。


「大変だったんだな・・・」

「・・・そうだな」


アーノルドは静かに2人の話を聞きながらベッドへ寝転んでいたが、突然体を起こすと、重苦しい2人にある提案をする。


「いっそのこと脱走してみたらどうだ?」


彼の言葉に2人は驚いた顔をする。


「脱走って、そんな映画みたいなことできるか?」

「やってみんとわからんじゃろ?」

「どうせ、失敗するよ」

「なら、諦めるんじゃな」

「・・・」


黙ってうつむくジョンの肩にクリスが手を置いた。

彼が顔を上げると、クリスは恐怖におびえながらも無理やり笑顔を作っている。


「やってみないか?」

「!?」

「死ぬかもしれないぞ?」


ジョンは自分の言葉にハッとした。

ここに来たときは死刑を望んでいたはずが、いつの間にか死ぬことに対して恐怖を抱いていることに。

そして、今は生きることを再び望んでいることにも。


「どうせここで死ぬまで過ごすならイチかバチかでもいいからやってみたい!」

「でも、どうやって?」

「まずは情報収集からだろ?」


クリスはなぜか自信満々の表情。

ジョンはそんな彼を見て少しほほ笑む。


この日からジョンとクリスはどうやって脱出するのかを毎日話し合うようになった。

脱獄の方法から刑務官の日々の動き、脱獄後の行動まで2人は綿密に計画。

その中でいつしかジョンも以前のような明るさを取り戻していった。

気が付くとそこから半年近くが経ち、ジョンとクリスの計画は出来上がる。


計画はこうだ。

まずクリスが夕食後に体調不良で医務室へ行く。

医務室に着いたあとは刑務官の交代に合わせてジョンと合流。

そこからは時間勝負で建物の外へ。

最後は車を盗んで収容所から出るというものだ。


2人は半年も計画を練ったものの、いい案は出ず、結局強引に突破するような方法しか思いつかなかった。

でも、2人はやれる自信があった。

刑務官もひとりずつ相手にすればどうにかできると思ったからだ。


「結局まともな方法は見つからなかったな」

「しょうがないだろ。壁を壊すこともできないし、地面を掘ることもできない。この案でも上出来だよ」

「とりあえずお前と合流できればどうにか外へは出れそうだ」

「あぁ、刑務官は俺にまかせろ」

「最後までやりきろう!」

「そうすれば俺たちに勝ちだ!」


ジョンとクリスはこの翌日に脱獄を実行することに決めた。

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