第16話 どうでもいい
革命軍リーダーのブルースとオードリーの2人は今後について部屋で話し合っていた。
現在は国中に警備が敷かれ、国民には外出制限。
さらに今後は軍が警備や監視の主導権を握ることとなり、犯人を捕まえられなかった取締局はその失態から力を失ってしまった。
そのため、オードリーは軍の言いなりでしか動けなくなったことを伝え、ブルースと頭を悩ませている。
「どうしたものか・・・」
「軍へ潜入している者たちも軍内部ではさほど権力はないしね」
「こちら側もそれなりに人数はいるが、武力行使となると勝てる確率は低い・・・」
「まだ少し様子見をしたほうが良さそうね」
ブルースとオードリーの会話に進展はなく、とりあえず今後については現状維持で様子見することが決まった。
一方、シャワーを浴びたエヴァが部屋に戻るとジョンがベッドの上で寝転がっている。
彼女は隣に腰かけるとジョンの手を取った。
「疲れたわね」
「あぁ、疲れた。ほんとうに疲れたよ・・・」
「これから私たちどうしよっか?」
「もう俺は戦いたくないよ」
「でも、私たちは指名手配だし、外にも出られないでしょ?」
「それはそうだけど、俺は成り行きの部分もあるからな」
ジョンはエヴァから手を放すと、背中を向けるように寝返りを打つ。
「俺はさ、ただ自分の人生が生きられればそれでいいよ」
「国家転覆とか、みんなを支配から解放とかさ・・・もうどうでもいい」
「でも、今回はさ、革命軍もいるしさ、彼らに協力すれば次こそは成功するかも」
「そう思って毎回失敗してるだろ?」
「・・・」
「成功するなんて保証はない、どれだけ頑張っても結果が出ないこともある」
「だからって、あきらめるの!?」
「あきらめるよ・・・」
エヴァはベッドから立ち上がると、そのまま部屋の外へ。
ジョンはベッドの上に寝転がったまま壁の方を見つめる。
「もう色んなものに振り回されるのはごめんだ・・・」
そう独り言をつぶやいたところで部屋にロバートが入ってきた。
「さっきエヴァが怒ってたけど、何かあったの?」
「いや・・・何も」
「そう。あのさ、ここの施設の中を紹介してあげるよ」
ジョンはロバートの言葉に体を起こすと、水を手に取り一口飲む。
「あぁ、連れてってくれ」
2人は部屋を出ると、施設の各場所を回っていた。
そこで会う人たちはみんな良い人ばかりで、とても革命を目指しているとは思えないほどアットホームな雰囲気だった。
「良い人そうなばかりだな」
「そうなんですよ。ここの人はみんな良い人です」
笑顔でそう語るロバートには一点の曇りも無いように見える。
ジョンはそんな彼のことが少し羨ましくなった。
「ロバートはいつもそんな調子なのか?」
「そんなって?」
「いや、明るくて楽しそうにしてるからさ」
「僕らはみんなこの国をひっくり返せる日を楽しみにしてるんです」
「でも、やってみないとどうなるかまではわかんないぞ」
「そうですね。でも国の状況を知って何もやらないよりはマシかなって」
「そうか・・・」
「ジョンさんやエヴァさんはすごいですね」
「失敗したけどな」
「大丈夫ですよ!今は僕らもいますから」
ロバートは相変わらず屈託のない笑顔を浮かべている。
ジョンもそんな彼を見て優しく微笑んだ。
「そういえばさ、ここから地上への出口っていっぱいあるんだよな?」
「はい」
「もしよかったらさ、俺にも地上への出口を教えてくれないか?」
「いいですよ」
そう言うとロバートはポケットから下水道の地図を取り出しジョンへ手渡す。
「出口の場所は赤丸がついているところです」
「ほんとうに多いな」
「すごいですよね、一体どうやってこれだけの出口を用意したのか」
「俺たちが今いるこの場所から下水道へ出るにはさっき入ってきたところだけか?」
「もう何ヵ所かありますよ。三角印のところがそうです」
「なるほど、えっとここから一番近い場所は・・・」
「こっちです」
ジョンはロバートのあとをついていく。
ドアのある場所まで来るとロバートは立ち止まり、ジョンの方へ振り向いた。
「どこか行くんですか?」
「ちょっと外の様子をな。内側からは普通に開けられるのか?」
「そうです」
ジョンはドアノブを握るとそのまま開ける。
そこには薄暗い下水道が続いていて、革命軍のアジトの中とはまるで別空間になっていた。
「じゃあな」
「えっ?」
そう言うとジョンはドアから下水道へ出るとそのまま走り去っていく。
ロバートは驚きのあまりそのまま彼を見送ってしまった。
「やばい!知らせなきゃ!」
ロバートは急いでリーダーの元へ走る。
一方、ジョンもとにかく走っていた。
走って、走って、下水道の出口を目指す。
彼はすべてが嫌になっていた。
これまでエヴァたちと一緒にやってきたこと、指名手配犯として逃げること、そして革命軍に加わり、再び国家転覆を目指すことも。
それらすべては今の彼にとってはもうどうでもいいことだった。
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