第15話 疲れた

2人は部屋の中へ通されるとドアがしめられ、奥に座っていた男が声をあげる。


「はじめまして」

「私は革命軍のリーダーをしているブルース」

「そちらにかけてくれ」


革命軍のリーダーを名乗る男は2人を手前にあるソファーへ座ることを促す。

自身は立ち上がると、2人が座るソファーの対面へ腰をかけた。


「大変だったね」

「君たちのことはニュースで見たよ」

「まずは君たちについて教えてくれないか?」

「一体何を知っていて、どういう理由で今回の事件を起こしたのかを」


ジョンとエヴァは彼の言葉に順を追って説明した。

国の在り方、エヴァがeasyという組織を作って国をひっくり返そうとしていたこと。

ジョンもそれに加わり、今回の事件を起こしたことなど。

その間、ブルースは黙って2人の話を聞いていた。


「なるほど」

「君たちのやりたいことはわかった」

「たしかに私たちはこの国にとってはただの労働力。奴隷だ」

「私たちも君たち同様にこの国の在り方をひっくり返そうとしている」

「どうか、君たちの力を貸してくれないか?」


ジョンとエヴァは顔を見合わせると、ブルースの言葉に頷く。

2人とも革命軍が味方であり、自分たちと同じ意志を持った人たちであることを理解したからだ。


「私たちも何年も前からこの国をひっくり返そうとしている」

「君たちにみたいに表立って何かをすることは少ないが、今は何人もスパイとしてこの国の中枢に送り込んでいる」

「政府や軍、警察に取締局など、ありとあらゆるところへ我々のメンバーが潜入しているんだ」


ジョンとエヴァは驚く。

自分たちにスパイという発想は無かったからだ。


「私たちは確実にひっくり返せる瞬間を待っているんだ」

「今はその準備段階といったところかな?」


と、その瞬間、突然部屋のドアが開く。

そこにはなんと取締局員として彼らを追っていたはずのオードリーが立っていた。

ジョンとエヴァは驚きのあまり身をたじろぐ。

それを見たブルースはため息を吐くと立ち上がり、改めて彼女の方を見る。


「オードリー、ノックもせずに入ったらダメじゃないか」

「あら、そう?そっちの2人は驚いて固まってるけど?」

「あぁ、紹介しよう・・・と言ってももう知ってるのかな?オードリーだ」

「何度かあなたたちには会ってるわね、そう私は革命軍のスパイよ」


ジョンとエヴァは驚きすぎてどうしていいのかわからない様子。

オードリーはそんな2人にため息をつきながらブルースの隣へ腰をおろす。


「2人とも大変だったわね」


やさしい笑顔を浮かべるオードリー。

やっと少し落ち着いたのか、エヴァはタバコに火をつけると一口吸い、煙を吐きながら話し始めた。


「じゃあ、今までのは全部演技だったってこと?」

「まぁ、そうなるわね、でもあなたたちのことは本気で追いこんでたわよ」

「なるほど、そりゃそうよね、それぐらいしないとスパイだとバレちゃうし」

「えぇ、今は国中があなたたちのことを探してる」

「少しの間はここで身を隠しててちょうだい」

「私たちスパイもまだまだやることがあるから」


エヴァとオードリーの会話にジョンも少し落ち着きを取り戻したのか深呼吸を行う。


「はぁ~、本当に驚いたよ・・・疲れた」

「ごめんね、そんなつもりはなかったんだけど、外に出てるときは取締局員の自分をくずせないから」

「とりあえず2人は休んでくれ、部屋はこちらで用意する」


ブルースはそう言うとドアを開け、外にいたロバートに声をかける。

2人はロバートに先導され、部屋まで案内してもらうと、そのままベッドへ倒れ込んだ。


「ひとまずは助かったわね」

「そうだな・・・」


そう言うと、エヴァはシャワーを探しに部屋の外へ出る。

ジョンはテーブルに置かれた水を飲み、深いため息をついた。


「なんとか助かったけど、また戦わなきゃいけないのか・・・」

「俺、もう疲れたよ・・・」


ジョンはここにたどり着くまでの行動を振り返っていた。


「あれだけ頑張ったのにここまで失敗続きだし・・・」

「次だってきっと上手くいかない・・・」

「俺は戦いたいわけじゃない、ただ自分の人生を生きられたらそれでいいんだ・・・」


これまで本当に大変なことばかりだった。

以前はただの会社員だったのに流れで反政府組織に加担。

仲間の裏切りを経験し、その後の作戦も失敗。今はなんとか逃げ延びて革命軍に保護されている。


「俺は何のために戦ってるんだ?」

「たしかにみんなはこの国の思い通りに生かされているだけかもしれない」

「でも、楽しいことが多かったのも事実だ」

「そりゃ、この国の実態を知ったときはショックを受けたけどさ、それを知ってからの人生はめちゃくちゃだ」

「これだけ大変な想いをして・・・たどり着いたのは指名手配犯か・・・」


ジョンは部屋の中でひとり涙を流した。

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