第13話 破壊はできない

エヴァは屋上から1階へ降りるとジョンが待つ駐車場へと向かう。

外は混乱している人たちが溢れていて、彼女の存在を自然と隠してくれた。

駐車場へ着くとジョンが待つ車へ乗り込む。


「行って!」

「了解」


ジョンはエヴァの言葉に頷くと脱出ポイントへと向かう。

この国の国境付近は自然に囲まれていて、脱出ポイントは目立たないようになっている。

そこへ着けばあとは隣国へ入るだけ。

ジェイソンからあらかじめ脱出のためのルートを聞いていたジョンはナビの表示どおりに走る。


「ちょっと待って!」

「なんだよ?」

「空から捜索されてる」


上空にはヘリコプターやAIロボットがいくつも飛び交っていて、爆破の犯人を捜しているのは容易にわかった。


「一旦隠れ家に行きましょ」

「そうだな」


ジョンは車を郊外にあるエヴァの隠れ家へと走らせる。

ガレージに車を止め、リビングへ入るとエヴァがすぐにテレビをつけた。

画面にはセントラルタワー上空が映し出されていて、爆破に関するニュースが報じられている。


「見た目には爆破の影響がわからないな」

「まぁ、爆弾といっても火薬を使ってるわけじゃないからね」

「それはいいとして、これからどうするかな」

「まずは様子を見ましょ」


ジョンとエヴァの2人は今後について話し合い、様子を伺いながら脱出することに。


一方、取締局のオードリーはセントラルタワーに到着し、中の様子を部下たちと確認していた。


「セントラルタワーは現在すべての機能が停止しています」

「見ればわかるわ」


タワー内部はすべての電子機器が完全に破壊されていて、ただの塔と化している。

彼女は奥のルーラーがある部屋へと向かった。

そこには大きな金属製の扉があり、部下が扉のロックを開ける。

中には巨大な筒状のガラスケースがあり、その中に最高の人工知能ルーラーが入っていた。


「しっかり稼働しているようね?」

「問題ありません」

「さすが特殊合金の部屋、大したものね」


じつはルーラーが置かれている部屋は壁や床、天井を特殊合金で囲った巨大な箱になっていて、何があっても止まらないような仕組みになっている。

これはテロを想定して作られたもので、核爆弾でも破壊することができないほど頑丈な作りになっているのだ。


それを見て安心したオードリーは部下を集める。

すぐに厳戒態勢を敷き、国中をしらみつぶしに捜索する指示を出した。


国の各メディアはルーラーが無事であることを知らせる報道を流し、犯人と思われるジョンとエヴァの写真も公開。

国民には自宅待機が命じられ、街には取締局員や警官、軍まで出動し、どうやっても逃げられないほどの監視が敷かれることになった。


ジョンがシャワーから出るとリビングでエヴァがニュースを見ている。

ジョンもそのニュースの内容を見て愕然とした。


「なんで壊れてないのよ」

「何が特殊合金の部屋よ!」

「くそっ!」


エヴァはまたも作戦が失敗したことに大きなショックを受け、膝から崩れ落ちる。

ジョンもショックを隠し切れない様子で、ソファーへ腰を下ろした。


「どれだけ頑張っても無理なものは無理なのか」

「やれることは全部やったのに・・・」

「ルーラーを壊せないんなら、もうこの国を変えることはできない」


2人がいる部屋には沈黙が訪れる。

無気力なジョンの隣にエヴァが座ると、2人は抱き合った。

いくら頑張っても何もできなかった悔しさにエヴァは涙をにじませ、ジョンも同様に涙を流す。


「これから俺たちどうなるんだろう」

「まず逃げ切れないでしょうね」

「やっぱ難しいか・・・」

「えぇ・・・」


外には今まで見たこともないほどの厳戒態勢が敷かれている。

そのため、国外逃亡ができる確率は限りなくゼロに近い。


「今日はもうゆっくりしよう」

「そうね・・・、私もシャワーを浴びてくる」


エヴァがシャワーに向かうと、ジョンは食事の用意を始める。

まるで普段のような生活を送っているように。

エヴァがシャワーから出ると、2人は一緒に食事をした。


自分たちが行った爆破事件のことについては一切触れず、ただ楽しい時間だけを過ごす。

それは2人とも「もう終わった」と感じていたからだ。


すべてをあきらめたジョンとエヴァ、それぞれの肩に乗っていた重荷は今おろされ、これまで感じたことがないほど心と身体は軽くなっていた。

2人には自然と笑顔が溢れ、心行くまで今を楽しむ。


そうした時間はあっという間に経ち、気が付くと夜になっていた。

外はとても静かで、たまにパトカーや軍の車が走る音が聞こえる。


「たぶん、俺たちが捕まるまでこの警戒は解かれないよな?」

「そうでしょうね」

「脱出ポイントに行ってみる?」

「行ってみよっか?」


そう言うと2人は準備を整えガレージに向かう。

エヴァは以前ジョンに運転させなかったほうの車のカバーを外すと、彼にキーを渡した。

静かに車へ乗り込んだ2人は脱出ポイントを目指して出発。

夜の闇へ消えていった。

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