第10話 反撃の糸口
怒りで取り乱すエヴァを見ながらジェイソンは冷静に用件を聞いた。
「で、今日は何しに来た?」
ジェイソンの言葉にエヴァは少し冷静さを取り戻すと、ビールを一口飲む。
「もう一度作戦を行うための糸口が欲しいの」
彼女の言葉にジェイソンはビールを吹き出す。
「本気よ」
「まだ、やろうってのか!?作戦決行の前に失敗しておいて?バカ言うな」
「お願い」
「俺はお前たちが『逃げるために手を貸してほしい』と頼むのかと思ってたよ」
ジョンはジェイソンの言葉に反応して手を上にあげる。
「ちょっと待って、逃げれるのか?今この状況から?」
「できる。隣国へ亡命すればいい」
「できるのか?」
「もちろん簡単じゃないがな」
「いいえ、ダメ!ジョン、もう一度やるのよ」
「でも、失敗しただろ?俺たちじゃ無理だ」
ジョンはジェイソンから国外逃亡の話を聞き、「もうそれしかない」と感じてしまった。
それはそうだ。この状況なら誰でも逃げる手段を考える。
だが、エヴァは違った。
作戦失敗、仲間の裏切り、そして今は指名手配。
彼女の心は怒りで満ち溢れ、どうやってもルーラーを破壊し、国家の転覆を果たそうと考えていた。
「もういい、あんたたちには頼まない」
そう言うとエヴァは家を出ていこうとする。
「どこ行くんだエヴァ!」
「ひとりでやるだけよ・・・」
「ちょっと待て!」
ジョンとジェイソンは2人がかりで彼女を止めると、もう一度ソファーへ座らせる。
「ひとりでなんか何もできない」
「できなくてもいいのよ!私の想いを全部ぶつけてやる!」
「2人ともやめろ。いいか、落ち着け」
「どうしてもって言うんならひとつだけ手段がある」
ジェイソンの言葉にジョンとエヴァは黙る。
「EMPだ」
「EMP?」
「あぁ、そうだ」
「あるの?ここに?」
「あぁ」
そう言うと、ジェイソンは立ち上がり、手招きをして廊下の方へ2人を呼ぶ。
廊下には下へ降りる階段があり、3人はそのまま地下室へ。
部屋の中はまるで研究室のようになっていて、よくわからない物ばかりが置かれている。
「これは俺が作った」
ジェイソンはAIライトやブラックのような球体を手に持ち、2人に見せる。
一見、とくに変わったところはないが、エヴァは驚いた顔を見せる。
「こんなに小さいの?」
「あぁ、お前に以前ブラックを作ってやったろ?あれはこれのための試作機のようなものなんだ」
小型ステルス機のブラックはじつはジェイソンが開発したもの。
そして、ブラックにEMP爆弾を搭載したものが、今彼が手に持っている球体だった。
「効果範囲は?」
「使用したことはないからハッキリしたことは言えないが、それでも半径1㎞ほどの範囲には有効なはずだ」
「すごい」
「なぁなぁ、EMPってなんだ?」
「EMPってのは強力な電磁波を効果範囲内に発生させるもので、すべての電子機器を損傷・破壊するんだ」
「この小さいのがそんなにすごいことができるのか?」
「そうだ」
ジェイソンは作業台にあるリモコンとゴーグルをエヴァに手渡し、「動かしてみろ」と指示をする。
エヴァはゴーグルをかけて本体を起動。EMP爆弾を搭載したブラックが宙を浮いた。
「これ、ブラックと基本は一緒?」
「そうだ、ただ今回のはマイクも付いてる。だから、音声を聞くことも可能だ」
「映像も前のより綺麗だし、操作感もいいわね」
「そうだろ?」
「リモコンの電波が届く範囲は?」
「同じく1㎞だ」
「それだけ?」
「しょうがないだろ、おもしろ半分で作っただけなんだから」
仲良さそうな2人のやり取りを見つめるジョン。
「2人の関係は長いのか?」
「あぁ、10年以上にはなる」
「エヴァ、ここに来る前に『まだ生きてるかな?』って言ってたろ?あれはなんだ?」
「お前、そんなこと言ってたのか!」
「だって、前来たときに調子悪そうだったから」
「あのときは食中毒を起こして静養中だっただけだ!だが、死にそうなほど苦しんだのは確かだ」
「アハハハハ」
3人はその後もそれぞれに色々な話題を話した。
ジョンが出版社に勤めていたときのこと、エヴァが過去に恋をした男性が取締局の人間だったこと、ジェイソンの足が臭いことなど。
とにかくいっぱい笑った3人はそのまま酔いつぶれるまで話し合った。
次の日、ジョンが起きるとちょうどエヴァが部屋に入ってきた。
さっきまでシャワーを浴びていたのか髪の毛をタオルで拭いている。
「おはよ」
「おはよ」
「ジェイソンは?」
「今ご飯を作ってくれてる、あなたもシャワー浴びてきたら?」
「あぁ」
ジョンはエヴァに促されてシャワーを浴びに部屋を出る。
飲み過ぎたせいもあって足元はフラフラだ。
そんな彼の姿を見てエヴァはクスッとほほ笑む。
「飯できたぞ!」
ジェイソンが出来立てのハムエッグトーストを部屋に持ってきた。
もう一度、部屋を出ると今度はゆで卵とオレンジジュースを持ってくる。
「で、EMPを使ったあとはどうするんだ?」
「国を出るよ」
「それがいい」
「国を出るまでのルートは俺に任せろ」
「ありがとう」
エヴァとジェイソンはともに抱き合い、別れを惜しんだ。
すると、外から数台の車が敷地内へ入ってきた音がする。
ジェイソンは急いでレースのカーテンの隙間から外を確認。
「取締局だ」
凍り付くエヴァとジェイソン。
ジョンは取締局の存在に気付かず、気持ちよくシャワーを浴びていた。
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