第9話 ジェイソン
何かが木の枝を揺らした。
オードリーはジッと枝が揺れる様子を見つめるが、木以外は何も見当たらない。
「何だったの?」
疑問を感じながら見続ける彼女へ声をかける男がひとり。
「なんで逃がした?」
男の名前はブラッド。元easyの幹部で、裏切りの張本人。
オードリーは冷たい表情を向け、サングラスをかける。
「あなたの足止めが下手だったからよ」
「あいつら閃光弾を使ったのに・・・」
「言い訳は結構、報酬をもらってさっさと帰ったら?」
「・・・・」
オードリーはブラッドから情報をもらって主犯のジョンとエヴァを捕まえるつもりだったが作戦は失敗。
だが、結果的にeasyを壊滅させることはできた。
今は彼らが企てたルーラー破壊作戦を警戒し、セントラルタワー周辺に監視を配置しているところだ。
「次はどう出る?」
「でも、2人でやれることなんてたかが知れてる」
「もしかすると・・・いやでもまだ何かありそう」
オードリーはひとり頭の中でジョンとエヴァの出方を考える。
取締局は警察や軍とも連携。街にはこれまでの倍のAIライトが配置され、全く隙が無い監視体制ができあがっていた。
一方、エヴァはオードリーが視線を外したあと、ブラックを隠れ家まで操作する。
「はぁ~、疲れた・・・」
「バレたのかと思った」
エヴァは帰還したブラックの電源を切ると体の力みが取れたのかそのままソファーに倒れ込む。
「でも、裏切っていたのはやっぱりブラッドだった」
「そうなのか?」
「えぇ、報酬欲しさに私たちを売ったみたい」
「なんて野郎だ」
ジョンはテーブルに置かれたビールを一気飲み。
それを見たエヴァはタバコを取り出し口にくわえる。
「どうやら街の方はこれまで以上に監視が厳しいみたい」
「おそらくもう入ることはできない」
「どうしたいジョン?逃げる?それとも戦って散る?」
ジョンもエヴァからタバコをもらうと口にくわえて火をつける。
それを一口吸うと、煙を吐きながら「もう打つ手はないのか」とうなだれた。
「街に入ることはほぼ不可能」
「当然ルーラーの破壊もできない」
「何かミサイルのようなものがあれば破壊できそうだけど・・・」
エヴァはジョンの言葉に何かをひらめいたのか「ジェイソンなら・・・」とつぶやく。
「なんだ?そのジェイソンって?」
「いや、昔からお世話になってる人なんだけど、あの人に頼めばできることがあるかも・・・」
「その人は今どこにいるんだ?」
「たぶん、まだ同じ場所に暮らしてるのならここよりもっと先に行った田舎に・・・。でもまだ生きてるのかな?」
ジョンとエヴァは用意を済ませるとガレージに足を運ぶ。
エヴァが車のカバーを外すと、どう見ても高級そうなスポーツカーが姿を現す。
ジョンはその姿を見て嬉しそうに車へ駆け寄った。
「わぁ、いいの乗ってんじゃん!これで行こう!」
「こっちよ」
カバーはひとつなぎになっていて、隣に止まっている車も姿を現す。
「じゃっ、行こっか」
隣に止まっていた車は一般大衆向けのどこにでもある車。
エヴァは「残念でした」と言わんばかりの表情で車へ乗り込むと、それを見たジョンは呆れた顔で助手席へ座る。
「なんで隣のを先に見せたのさ!」
「だって、見せたかったんだもん♪」
ガレージを出ると車はジェイソンの元へ出発。
車内には物が散乱していて、お世辞にも綺麗とは言い難い。
ジョンの足元にはお菓子やジュースのゴミが転がっていて、「なんだこれは」と言わんばかりの表情でゴミをエヴァに見せる。
「だって、こっちの車の方が目立たないし、田舎を走ってても違和感ないでしょ」
「わかった、もう寝る。着いたら起こして」
そう言うと、ジョンは背もたれを倒して目をつぶる。
エヴァは笑顔でジョンを見ると、ジェイソンの元へ車を走らせた。
それから2時間ほど車を進めたところでエヴァはジョンを起こす。
目くばせでジェイソンの家に着いたことを知らせ、エヴァは先に車を降りた。
彼女が家に近づくと、玄関が開く。
「久しぶりだなエヴァ、元気だったか?」
「ジェイソンこそ」
ジョンは少し遅れて車から降りると、初対面のジェイソンに手を上げる。
「あれはジョン、で早速話したいんだけど、中いい?」
ジェイソンは顔で入るよう合図をすると、ジョンも寝ぼけながら玄関へと歩く。
入口の階段で転びそうになったところをジェイソンが支えた。
「おまえ、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫・・・、ごめん」
中に入ったジョンはエヴァが座っているソファーの隣へ腰をおろす。
ジェイソンは冷蔵庫からビールを3本取り出すとエヴァとジョンに渡した。
「おまえら、ニュースになってたな」
「えぇ、本当はルーラーを破壊するつもりだったんだけど・・・」
「もしかして仲間の裏切りか?」
「えぇ・・・」
エヴァがタバコに火をつける。
ジェイソンは彼女を見てため息をついた。
「はぁ~、だから言ったろ。無茶だって」
「やってみないとわかんないでしょ?」
「それはそうだが、お前、焦りすぎじゃないか?」
「・・・」
ジェイソンの言葉にエヴァは図星だった。
「1日でも早くこの国の支配を止めたい」というはやる気持ちから焦りが生じ、「創設メンバーなら大丈夫」という想いから人選を誤った。
作戦に時間かけるだけでなく、その前段階からもっと慎重になるべきだったのだ。
「私は仲間を信じてた。いや、信じたかった」
「裏切ったのはブラッドよ!」
「あいつ!許さない!」
エヴァの表情は怒りに満ちていた。
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