第8話 ブラック

エヴァがシャワーから出てくるとジョンはソファーに寝そべりながらテレビを見ていた。


「大変なことになったな」

「そうね」

「これからどうするんだ?」

「ちょっと見せたいものがあるの」


エヴァはそう言うと、部屋の奥へと消える。

数十秒して戻ってきた彼女は箱を抱えていた。


「何それ?」


ジョンの質問にエヴァは「よいしょ」と床に箱を下ろし、中からAIライトのような物を取り出す。


「おいおいおい!」

「それってライトだろ!」

「ここにあったら俺たちの存在や場所がバレちまうだろ!」


血相を変えて怒るジョンに気にするそぶりも見せず、エヴァはそのライトに似た物の電源を入れた。


「じつはこれねライトに似てるけど、まったく別のAIロボなの」

「名前はブラック」

「これはルーラーともつながっていない完全に独立したAIロボで、自動でも動けるけど、これで操作することもできるの」

「さらにもっとすごいのがコレ!」


エヴァがリモコンのような物を操作すると、一瞬でブラックが見えなくなる。

彼女は嬉しそうな笑顔を見せながらタバコに火をつけた。


「えっ?何?」


驚いてさっきまでブラックがいた場所を凝視するジョン。

エヴァはタバコを一口吸ってから話し始めた。


「このブラックはね、ステルス機なの」

「だから、姿を隠したまま動くことができる」

「もちろんレーダーでも感知できないよ」

「ライトですら見つけることは不可能」

「でも、実体が消えるわけじゃないから見えてなくても触ることはできるよ」


ジョンは恐る恐るさっきまでブラックがあった場所へ手を伸ばす。

すると、指先が何かに触れる。

そこからさらに指をすべらせると球体の何かがそこにあるとわかった。


「すごい・・・」


初めて見えない何かを触ったジョンはその不思議な感覚に興奮を隠せない様子。

何度も何度も球体を撫で、その感触を確かめる。


「これがあればさ、外の様子も簡単に知ることができると思わない?」

「たしかに・・・」

「だから、この先のことはひとまず置いといて、一旦外の様子を知ることから始めましょう」

「わかった」

「わかったならあなたもほら!シャワー」


ジョンはエヴァに促されてシャワーを浴びることに。

その間に彼女は食事の用意を済ませ、ブラックの試運転の準備を行う。

ある程度したところでジョンがシャワーから出てくると、2人は食事を取った。


つかの間の休息。

2人はとても穏やかな時間を過ごしていた。

今だけはイヤなことをすべて忘れ、互いに他愛もない会話で盛り上がる。

ジョンもエヴァもありのままの自分でいられる時間に喜びを感じていた。


「じゃあ、やってみよっか」


エヴァはそう言うと箱からゴーグルのようなものを取り出し、ブラックを起動。

リモコンを操作し、ブラックを宙に浮かせた。


「このゴーグルはブラックのカメラとつながってるの」

「ブラックの視点になれるから偵察はこれでいけるわ」

「じゃあ、ステルスモードに切り替えるから窓を開けて」


ブラックの姿が見えなくなるとジョンが部屋の窓を開ける。

彼はブラックが今どこにいるのかわからず、さっきまでブラックが浮いていた辺りを眺める。


「窓閉めて」


エヴァの言葉にジョンは窓を閉める。

どうやらブラックは外へ出たようだ。


「この辺りはあまり取締局の手は回っていないみたいね」


エヴァは外の様子を確認すると、少し高めの位置まで上昇。

見える範囲が広くなったところで街の中心部へとブラックを進ませる。

ある程度中心部へ近づくと、街には厳戒態勢が敷かれているのが見え、あちこちに検問が。


「さすがにそうなるよね」

「おい!どうなってるんだ?」

「中心部は検問だらけ、パトカーもかなり走ってるみたいね」


辺りを確認しながら先へ進むとセントラルタワーが見えてきた。

タワー周辺はより一層警備の数が増えていて、どう考えても侵入なんてできない。

すると、タワー周辺の監視の中に取締局員の姿を発見。

彼らは皆黒スーツを着てるため、一目でそれだとわかる。


「あいつだ」


エヴァは何かに気付いたように声をあげる。

ジョンはそれがすぐに誰か察した。


「オードリーか?」


ジョンを車の中で尋問し、エヴァと一緒にいたところを制止してきた取締局の人間だ。


「あいつ偉いのね、他の人間に何か指示してる」

「何を指示してるんだ?」

「わからない、ブラックにマイクはついてないから音声までは拾えないのよ」


もう少し近くで見ようとエヴァはブラックの高度を下げる。ズームにも限界があるからだ。

ブラックの映像を見ながら高度を下げていると、突然画面が揺れる。


「やばっ!」


エヴァはすぐに何が起こったのか察した。木だ。

ブラックの高度を下げたことでセントラルタワー周辺に生えている木の枝にぶつかったのだ。


「ガサッ」


その不自然に揺れた木の枝にオードリーが気付く。

ジッとそちらの方を見つめたまま動かない彼女はまるでブラックのカメラを見つめているかのようにも見える。

エヴァは彼女の視線に息を飲んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る