第6話 ルーラー

「ガチャッ」


easyのアジトに到着したジョンとエヴァは車を降りる。

コンクリートでできた2階建ての建物には「Hard Co.Ltd.」と書いた看板が見える。


「えっ?会社なのか?」

「そうよ。そのほうが怪しまれずに済むでしょ」

「表向きはIT企業。でもその実態は国家転覆を狙う組織」

「あなたにはしばらくここで寝泊まりしてもらうわ」

「わかった」


そう言うと2人は建物の中へ入る。

深夜ではあるものの中には多くの人がバタバタと忙しそうにしていた。


「こっちよ」


ジョンはエヴァの後ろについていく。

その道中easyのメンバーたちはみなエヴァとあいさつを交わす。


「エヴァって偉いんだな」

「だって創設メンバーのひとりだもん」


しばらく歩いたところで会議室のような場所へ案内される。

ジョンはエヴァに促されて席へ座ると、ゾロゾロと他のメンバーたちも部屋に入ってきた。

おそらく何かの会議を行うのだろう。

そこには車で迎えに来てくれたメンバーもいて、みな屈強そうな見た目をしている。

ジョンとエヴァを除いた6人目が入ってきたところで彼女が口を開く。


「今日はありがとう」

「私の隣にいるのは新メンバーのジョン」

「よろしく」


ジョンのあいさつに6人全員が各々に返事をする。


「右からウィル、スカーレット、ジェニファー、ブラッド、そして迎えに来てくれたトムとジョニーよ」

「で、いきなり本題なんだけど、みんな覚悟は決まった?」


その言葉にみながみな顔を見合わせる。

最初に口を開いたのはスカーレット。


「みんな覚悟はできてるよ」

「いつかはやらなきゃいけないことだし」

「ただ、ここにいるメンバーはいいけど、他のメンバーたちはそこまで経験豊富じゃない」

「大丈夫なの?」


エヴァはタバコに火をつけ、一口吸ってからスカーレットのほうを向く。


「計画はここにいるメンバーだけでやりたい」

「????」


その言葉に集まったメンバーたちは驚いた顔をする。


「ちょっとまてエヴァ、それはあまりにも無謀すぎる・・・」

「せめてもう少し時間をかけて他のメンバーに経験を積ませて・・・」

「私たち7人で何ができるの?」


みな各々に意見を口にする。

ジョンは何のことかさっぱりわからず、ただ座ってみんなのことを見ていた。


「わかってる」

「でも、ここにいるみんなのことしか信用できないのよ」

「もしeasyの中にスパイがいれば作戦が失敗してしまう」

「だから創設メンバーのこの7人でやりたいのよ」


この言葉に全員が黙る。

easyという組織は元々ここにいる7人が立ち上げたもので、この7人で行った作戦だけは失敗したことがない。

過去には実際に取締局のスパイがいたこともあり、何度も会社名やアジトの場所を変えている。

現在は実態のある会社として経営していて、社長を外から雇い、メンバーたちを偽名で会社員として雇用しているのだ。


「ここにいるみんなでなら必ずAI"ルーラー"を破壊できると思う」


AIルーラーとはこの街を管理している人工知能。

ジョンの自宅で使っていたAIライトの親分的な存在で、各ライトが集めた情報を収集し、すべての国民を監視している。

ちなみにAIライトは国民それぞれの自宅、会社や学校など、いたるところに配置されていて、それらはすべて情報収集と監視のためにあるのだ。


「ルーラーが破壊されればひとまずこの街の監視や管理はできなくなる」

「政府や軍上層部を片付けるのはそのあとね」


エヴァの言葉にみな頭を悩ませるように考え込む。

言うのは簡単だが、それを実行するのは並大抵のことではない。

そんな彼らを見つめていたジョンが突然立ち上がる。


「俺、ルーラーを見たことあるよ」

「厳密にはルーラーがある部屋の中を見せてもらっただけだけど」


その言葉に全員の視線がジョンへと向かう。

ルーラーは本来一般人は見ることはできず、場所も関係者以外立ち入り禁止になっているからだ。


「いや、俺、出版社に勤めてたからさ、前に取材に行ったとき、特別に中を見せてもらったんだよ」

「部屋の中はとても広くてとにかくコンピューターだらけだったよ。研究者の人も多かった」

「もちろん監視している人の数もすごかったけどね」


ジョンのこの言葉に皆が「もっと聞かせろ」と前のめりになる。

みんなの雰囲気に圧倒されながらもジョンはルーラーについてわかっていることを話はじめた。


ルーラーは街の中心部にあるセントラルタワーの中にあり、たどり着くまでには様々な厳しいチェックを行わなければならない。

普通にチェックを終えてルーラーの元へたどり着くには特定の人物以外は明らかに無理。

当然正面から突入しても武装した監視が無数にいるため、これも無理がある。

その場にいる全員が頭を悩ませ考えていると、ジョンが口を開く。


「ルーラーがあるひとつ上のフロアから侵入すればどうにかならないかな?」


ルーラーがある場所までは厳しいチェックがあるが、セントラルタワー自体は誰でも入れるため、ルーラーがあるフロア以外は比較的監視の目は緩いのだ。


「なるほど、その手があったか!」


ジョンの案に皆が思い思いの作戦を口にする。

ここからルーラー破壊計画が始動した。

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