第5話 自分の意志
「そんなことになっていたのか」
ジョンは初めてこの国の在り方を聞き、ショックを受ける。
自分は国の思うがままに動かされ、そこに自分の意志はあるようで、無かったということにも。
「あなたは良い人生を送るためにこれまで頑張ってきたのよね?」
「あぁ、嫌だと感じることでも我慢してやることのほうが多かった」
「いつも良い行いを意識し、つねに人のためを考え行動していたんだ」
「だから、本当の自分は身を潜め、何か別のものが自分の代わりに生きていたような気もする」
「波長が乱れても、低く下がってしまっても、ストレス発散やリフレッシュを行うことで波長を整え、高く上げる」
「そうして良い波長を維持しながら高い点数を目指して日々良い人として頑張っていたんだ」
ジョンはそう言うと彼女にタバコを1本ねだる。
もらったタバコを口にくわえると、彼女が火をつけた。
「ケホッ!ケホッ!」
「あなたタバコを吸ったことないの?」
「あぁない!でもこれでいい」
「これが俺の意志の第一歩だ」
今まで自分の意志を持たずに生きてきたジョンにとってそのタバコはとても意味のある1本だった。
彼女はそんなジョンを見てクスリと笑う。
「・・・なんだよ」
「いや、自分の意志がタバコを吸うことって・・・クスクス」
「別にいいじゃん」
「いいよ」
彼女は笑うのをやめると、ジョンを見つめる。
「私、エヴァっていうの」
「よろしくね」
「あぁ、よろしく」
「で、エヴァは一体何をしたいんだ?」
「前に世直しって言ってたけど」
ジョンの言葉にエヴァは急に真剣な表情になった。
彼女も新たにタバコをくわえて火をつける。
「さっきも言ったけど、この国をひっくり返すのよ」
「この国の在り方を変えて人間ひとりひとりが自分の意志で生きていけるようにするの」
「点数なんか気にしなくていい、波長の上がり下がりも気にしなくていい」
「全部が自分の思い通り」
「そのままの自分で生きていける国を作りたいのよ」
「そうなるといつも楽でいられると思うの」
ジョンはエヴァの言葉に頷く。
「たしかにそんな生き方ができれば楽だろうな」
「俺もそんな風に生きてみたいよ」
そう言うとジョンは何かを思い出したかのように表情を一変させる。
「俺、人間関係嫌いだったんだよ!」
「友達のスティーブンとの関係だって、互いに良い人でいようとしてるからぎこちないしさ」
「そもそもそれ以外の人間関係なんて無くたっていいようなものばかりだ」
「めんどくせぇ!」
「それに点数稼ぎばかりの人生だったからいつも良い行いができるチャンスを見つけようとしてたしな」
「本当はそんなことやりたくないのに・・・」
「くだらねぇ!」
エヴァはジョンがこれまで溜まっていたものを吐き出す姿に笑った。
ジョンは吸っていたタバコを地面に投げつけ、思いっきり足で踏みつける。
「あなた、よっぽど自分に嘘ばかりついて生きてきたのね」
「しょうがないじゃないか、それ以外の選択肢がなかったんだから」
クスクス笑うエヴァを横目にジョンは座り込む。
「俺、エヴァのこと手伝いたい」
「どうせ、帰れないんだろ?」
「だったらなんでもやるよ」
真剣なまなざしで見つめるジョンにエヴァは優しく微笑む。
「ありがとう」
「でも、今回のように危険なことも多いし、大丈夫?」
「全然問題ない!むしろワクワクすらしてるよ」
ジョンの言葉にエヴァは目を丸くする。
彼女はジョンが国の転覆にワクワクするような人物とは思わなかったからだ。
「私はある組織に属してるの」
「名前は"easy"。」
「『楽』ってことか?」
「そういうこと」
そう言うとエヴァはジョンの腕を掴み、手首のバンドを見つめる。
「まずはこれからね」
「どういうこと?」
「このバンドに細工をするの」
「点数が下がったり、波長が乱れないようにね」
「そうすればどんなことをしても表面的には怪しまれない」
「良い人たちの中に紛れるのよ」
すると、そこへ1台の黒いSUVが来る。
車が停まるとドアが開き、ひとりの男が顔を出した。
「エヴァ、いいぞ」
「じゃあ行こっか」
エヴァはジョンの手を取り一緒に車の中へ乗り込む。
車には怖い顔をした男たちが乗っている。
「これがeasyのメンバーよ」
「他にもいるけど」
「頼りになる人達よ」
その言葉に運転席と助手席に座っている2人が手を上げる。
エヴァは座席に置いてある何かを手に取り、ジョンの腕を掴んだ。
それは見たこともない機械で、それを手首のバンドにかざすと「ピピッ」と音がする。
「これでよし」
ジョンは手首のバンド表示を確認した。
「それであなたの点数は下がらないし、波長も乱れない」
「・・・そうなのか?」
不思議そうにバンドを見つめるジョン。
一見何も変化がないため、見た目からはよくわからない。
「このままアジトに向かうの」
「そこで色々と話すわ」
「わかった」
車の中はアジトに着くまで誰もしゃべらず、ただ車のエンジン音や走行音だけが聞こえる。
窓から見る景色は綺麗な都会の夜と言った印象で、ジョンはその景色に少しの寂しさを感じていた。
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