第3話 逃走劇

手を引く女性は少し早いペースで歩き、グイグイとジョンを引っ張っていく。

ジョンはわけがわからないまま路地裏へと連れていかれた。


「さっき車の中で何を話してたの?」


クールな表情と少し威圧的な口調で質問する彼女。

ジョンは戸惑いながらも「君のことを聞かれたよ」と答えた。


「なんて答えたの?」

「美人だと思って声をかけたけど、すぐにフラれたと・・・」

「あっそ」


ジョンはさっきから質問攻めが続いていることにいら立ち、逆に質問してみた。


「一体君は何なんだ?」

「言えない。でも・・・しいて言うなら"世直し"を考えている女ってとこかな」

「意味が分からない」


ジョンは質問をしたのに意味の分からない返事をされ、余計にイライラを募らせる。


「世直しってなぁ、この完璧な世界のどこに世直しをする必要があるんだ?」

「人・・・かな?」

「はぁ???」

「人間ひとりひとりが変わらないと世界は変わらない」

「?????」

「まぁいいわ、何も言ってないのならもう関わる必要もない」


そう言うと女性はその場を去ろうとする。

背中を向けて歩き始めた彼女の肩をジョンが掴んだ。


「君が何なのかわかるまで帰さないぞ」


ジョンは質問攻めのイライラと少しの正義感で彼女を制止。

と、その瞬間。ジョンの身体が宙を舞う。


「ドンッ!」


ジョンは彼女に投げ飛ばされた。

背中に痛みが走る。


「イタッ!何なんだ!」

「・・・」

「あなたに知る覚悟があるの?」


彼女は寝転がったジョンに冷たい表情で言い放った。

ジョンはその表情に少しの恐怖を感じながらも意地になって「ある」と答える。


「わかった」

「じゃあ、今晩7時にこの場所に来て」

「そこから色々と教えてあげる」


そう言うと彼女はその場を立ち去る。

ジョンは背中の痛みに耐えながらなんとか起き上がり、去っていく彼女を見つめた。


会社に戻ったジョンはスティーブンから何があったのか聞かれる。

彼は「何もない」とだけ答え、定時まで仕事をこなした。

会社が終わったあとは一度帰宅し、お風呂と食事を済ませる。

いい頃合いになったところで彼女に投げ飛ばされた路地裏へと向かった。


「ったく!何なんだよ」

「言いたいことがあればあの場で言えばいいのに」

「今日は波長が乱れることばっかだ」


ぶつぶつ言いながらも目的の路地裏まで歩くと、すでに彼女は来ていた。

全身真っ黒のライダースーツを身にまとい、ジョンが近づくと彼にヘルメットを投げる。

ヘルメットを受け取ったジョンは「乗れってことか」と察し、彼女のうしろへ乗った。


「そこの2人止まりなさい!」


突然2人は強い光に照らされた。

よく見ると、路地の入口に人が立っているのが見える。


「止まらないと逮捕します」


ジョンはその声を聞いてすぐに察した。


「取締局だ」


彼の言葉にライダースーツに身を包んだ女性が反応する。


「あなた尾行されていたのね?」

「しょうがない、行くわよ!掴まって!」


彼女はそう言うと、いきなりバイクのアクセルを全開にして急発進。

驚いたジョンは思いっきり彼女にしがみつく。

バイクはそのまま取締局がいるほうへと突っ込んでいった。


排気音はうなりをあげ、バイクはより一層加速していく。

ジョンはその常軌を逸した行動に言葉にならない声をあげる。

とてつもないスピードで突っ込んできたバイクを取締局の女性がギリギリでかわした。


バイクは道路へ出るとさらに加速していく。

後ろからは数台のパトカー。上空からはヘリが彼らを追う。


「一体何なんだよ!」

「ちょっと黙ってて!振り切るから!」


バイクはパトカーを振り切るためビルの谷間を駆け抜ける。

執拗に食らいついてくるパトカーとヘリ。


「キリがないわね」


そういうと、彼女は突然Uターン。

今度はパトカーのほうへと向かっていく。

華麗な運転でパトカーを交わすと、バイクを止めて辺りを見渡す。

すると、歩道にある地下鉄の入り口を発見。


「ちょっと!何をする気だ?」


ジョンに嫌な予感がよぎる。


「待て!待て!待て!待て!」


後ろで叫ぶジョンを無視して彼女は地下鉄入り口へバイクを走らせた。


「ドンッ!」

「ガンッ!」

「ゴンッ!」


バイクは階段で激しく揺れながらもなんとか倒れず構内へ。

そのまま構内を走り抜けていくとホームが見えてくる。


「まさか?冗談だろ?」


ジョンの悪い予感は的中。

バイクはホームからそのまま線路へダイブ。

上手に着地をきめると、間髪入れずに線路の奥へと進んでいく。

一駅、そして二駅を超えたところでようやくバイクは止まった。


「来て」


2人はバイクを降りると地下鉄の外へ。

人気のない高架下まで歩いたところで彼女がヘルメットを脱いだ。


「あなた、もう帰れないわよ」


その言葉に驚きながらジョンもヘルメットを脱ぐ。


「なんで?」

「もうこっちの仲間だと思われてる」

「仲間じゃない!それに話せばわかってくれるだろ」


ジョンの言葉に彼女はため息をつく。


「無駄ね」

「バイクで逃走劇まで披露しちゃったし」

「そもそも取締局の奴らはルールを破る人間を許さない」

「あなたはもう今までどおりの暮らしはできない」

「だから私と来るか、それともひとりで逃げながら生活するか」

「そのどちらかね」

「まぁひとりで逃げてもすぐに捕まるだろうけど」


あきれた表情で見つめる彼女。

ジョンはその言葉に膝から崩れ落ちた。

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