第28話 最後の希望が失われても光は失われない

「ミヅキ、俺はここにいる、君はこの世界を救う聖女だ。君には力があるはずだ。」


 俺は言葉を続けた。

 

「……君がどんな聖女ひとでも俺は相棒バディとして何でもやるから、俺が暮らしていた世界に戻らせてほしいんだ」


「力を貸してくれ。現代に帰るまで足のない、君をこれからおぶっていくから。だから、どうか力を貸してくれ!」


 俺は俺の嘘偽りのない気持ちを叫んだ。

 ロイドがこの村を救うよりもリリィとの生活を取った気持ちはよくわかる。

 俺にこの世界を救うとかそんな大層な気持ちはない。俺には現代社会に戻りたい理由があるんだ。そのためには君が必要なんだ。


 俺の必死の言葉の前に、ミヅキの声が小さく聞こえた。

 

「……シュウ、……身体が欠けた私でもいいの? ……これから、今まで以上に迷惑をかけ続ける存在……に、なる……の……に」


 彼女の言っていることが一瞬、理解できなかった。

 

 身体が欠けたからってなんだ?

 ”これから、今まで以上に”ってなんだよ。

 彼女の地雷踏んで面倒な展開になったような気もするが、今まで迷惑だなんて思ってないよ。

 

 身体が欠けて右足がなくなって彼女は不自由になるだろうとは思う。

 ミヅキ、君が聖女だから一緒にいるという意味でいえばそれはあるにはある……が、ここまで俺たち、何とかやってきたじゃないか。


 俺はなぜか絶体絶命のこの状態で、次に何があってもどんなことがあっても帰ると決意したんだ。正直、俺は君がどういう性格なのか全然わかっていないけど、君にいてもらわないと困るんだ。

 

 なぁ、わたる

 俺、やっとお前の言葉を飲み込んだ気がする。

 

 この先、どうなるんだろう。

 君も俺も1人だったら露頭に迷っていたような気がする。

 俺には何もないけど、特別な力を持った君がいればきっとなんとかなる気がする。

 

「君が必要だよ」

 

「いいの? ほんとに? 私を置いていかない? 一人にしない?」


「しないよ、君を一人なんて絶対にしない。というかさ、むしろ俺と一緒にいたくないって思うのはミヅキな気がする。……いくらでも文句言っていいから」


「シュウ……」


 そう言った途端、俺たちを繋ぐ紐らしきものが手首にするすると巻かれていくような感覚を感じた。

 もう一方の手で俺はその紐をしっかりと確認する。


「シュウ、ひっぱって」


「わかった」


 俺は紐をひっぱって、ミヅキを抱き寄せた。


「怖かった、シュウ」


「ごめん、一人にして。もう大丈夫だから……でも……くそっ、光をみつけたのに、ロイドがあれだから」


 俺は冷たい床に手を置いて悔しがった。

 ミヅキはその俺の手を自分の手の中に入れて、祈り始めた。ミヅキの手は触った瞬間は冷たかったが、徐々に温かくなっていった。


 それは不思議な感覚だった。

 部屋が石で囲まれていることもあり、ついさっきまで身体中、ひんやりとした感覚だったのに、ミヅキと繋がっている手のその体温が俺に流れてきたような、温かさを感じた。


「ごふっっ」


 死んだはずのリリィの遺体方向からせき込んだ音がした。


 えっ?

 

「お兄ちゃん」


「リリィ……? 生き返った……のか? そんなことが……」


『生き返らせるだと……!? ……そんな、聖女、お前、暗闇に行きたいんじゃないのか。そんな不自由な身体で、誰もお前を必要となんかしない』


 ミヅキは祈り続けていたポーズのまま、ぎゅっと手に力を入れた。中にある俺の手が汗ばんだ。

 

「いいえ、ここに、必要としてくれる人がいる。私はまだこの世界に、いる」


 俺はそこでありったけの声で言う。


「さぁ、ロイド、教えてくれ。ロイドとリリィはどうやって生活しているのか。それは働き手の若い男性じゃなくても……君らが村の外に出なくてもできることなんだろ?」


 俺はずっと不思議だったんだ。

 仕事を疎外されたロイドがこの村の外れで生活できていることを疑問に思ってた。

 あの様子だと外と交流していなかったはずだ。だからきっとロイドは知っている。働き手が若い男性じゃなくても、生活できるだけの何かをロイドは持っている。俺は確信している。

 

 ロイドは黙っている。


「……そうよ、私たちは……村の外に出ないで……生活しているわ、シュウ」


 声をあげたのは息も絶え絶えに話すリリィだった。

 

「……お兄、ちゃん、……何で言わないの? まだ村の人に……いや、ミヅキさんの……やったことを根に……持っているの?」


「……あのね、ミヅキさんに……私が頼んだの。……村の外に連れて行ってと。……シュウくんがいなくなって困ってた……ミヅキさんの話を……聞いて。ごふっ」


 リリィは一気に話したせいか、最後の言葉を発してからせき込み始めた。


 そうだったのか。

 ミヅキは俺がいなくなって助けをリリィに求めたのか……。


 じゃあ、これは作戦でリリィは捕まるつもりでここにきたというのか?

 そんな危ないことを……ロイドに黙ってやったのか。ロイドにとってリリィは命より大事な妹だぞ!?なんだってそんな無茶なことを……。


 混乱した俺が何を言おうか考えている間に声を出したのはロイドのほうだった。

 

「リリィ!?」

  

「……う、……ん、ごふっ、ごめんなさい……」


「リリィはもう話さなくていいよ。……気持ちはわかった……彼女に悪意はないってことも。ただ正直、この状況と展開が飲み込めてない……でも必要だというなら……私たちがどうやって生活しているのか、話そう」


 そりゃ、いきなりリリィはいなくなってこんな場所で一度死んで生き返った上に、あなたがこの村の希望を知っていると急に言われたも困るよな。

 リリィの理解の早さ? ミヅキの説明のおかげ?

 とにかく2人のおかげで救われたってことはわかる。

 

 ここから皆で出るんだ、そうだ。

 それはリリィが生き返ったロイドだって望んでいることなんだ。

 真っ暗闇の中にある光……そう、希望を、たった今、俺たちは手にしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る