第25話 秘密から推理する、導き出される答えとは

「そんなことを知ってどうするんですか?」


 テッドの父親は俺を村の出納係すいとうかがりの所に案内しながら聞いた。

 もちろんミヅキは俺の横にいる。

 俺の洋服の裾を密かに掴んでいる。(手は繋ぎたかったけど、人前で恥ずかしくて繋げなかったというのは秘密。)


「何も手がかりがないのでとりあえず気になる所から見てみようかなと思っています。とにかくこの村のことを知りたいのです」


 俺は口から出まかせを言った。

 テッドが秘密にしていることはきっと他の人も秘密にしたいことだと思ったからだ。


「あ、その前に……ここが村の中心です」


 真っ暗な中にぽっかりと広場が広がっている。

 人がまばらに存在し、先を進むとホラーゲームに出てくるおどろおどろした教会みたいな建物がどっしりと構えていた。

 建物の扉が開いており、そこからまばゆい光が出てくて、中を少し除くと広場よりも人がいる。

 そこはゾンビもとい闇の病みはびこる町の教会ではなく、村の人の憩いの場所であるのがうかがえた。


「ここは祈りの場所です。皆、子供や夫が病気になってしまったので神に祈っているんです……」


 テッドの父は少し苦い顔をしながら言った。

 そういうことか……。


「ちょっと中に入りましょうか」

 

 言われるがまま、教会の中に入る。

 内部の壁一面に壁画が描かれている。


 テッドの父はまっすぐ進んで手を上げて言った。


「あれが、聖女様ですよ」


 視線を上に向けると、顔が2つある女性の姿が壁に描かれている。

 その顔は対照的な顔だ。1人は泣いて、背景は何もない。もう1人は随分穏やかの顔で光を浴びているような線が入っている。


「あれが……」


 その背景には影のようなものが浮かんでいる。聖女がしっかりと描かれているのに対してその陰は誰かが立っている感じで一切の様子はわからない。


言伝いいつたえではあの聖女は1人です。毒になるのが泣いている聖女で、薬になるのがその横にいる聖女です。どちらの姿になるかは後ろにある影の何か次第という話です……」


 壁画自体が伝説(だったような?)を示していることか。

 俺は再度、壁画を見た。この世界の光となって救うか、もしくは暗闇に導く聖女ということか。

 ミヅキは俺の隣で静かに絵をみている。

 そもそも聖女である自覚がなさそうな彼女はこの絵を見て、何を考えているんだろう。

 そんな風に思っている所にテッドの父親は俺に向かって助けを求めた。


「我々はこの言伝えを信じているのです、どうか……この村を救ってもらいたいのです」


 深々とお辞儀をする彼をよそに周りの人間が訝しげに見てくる。

 俺の後ろにミヅキは隠れてしまった。

 ミヅキ、これは俺の話じゃなくて、どちらかというと君の話なんだよ。

 相手の神頼みになる気持ちはわかるけど、俺には何も力がないからはいともいいえも言えないぞ。


「あ、あの……移動しますか?」


 ◇ ◇


「え? ここ数年の出納帳すいとうちょうを見せてほしいと?」


 出納係はテッドの父親よりだいぶ年上の男性だった。

 

「いきなりすみません。見せてもらえますかね?」


 テッドの父親は出納係に頼んだ。

 

「あぁ、全然、問題ないが……この方々はいったい、どなたなんだい?」


 彼はテッドの父親に聞いたので、父親は出納係に告げた。


「南の町から来た親戚ですよ」


 ほんとのことは言わない。

 彼は息子と同じくこの村の人に期待させないように気を遣っているようだ。


「そーなのか。あっちはまだ時々明るいんだろうなぁ……」


 そう言いながら、壁一面の本棚からノートを何冊か取る。


「最近のはここらへんかな……南のほうは貿易も盛んだし景気がいいんじゃのぉ」

 

 出納係はそう言いながらノートを開いた。

「随分前から私は管理もしとらんし、アレが起きてから誰もやってないからどこまで書いてあるのか、わからん。ここらへんのノートを勝手に見てくれ」と言って、その場からいなくなった。

 

「彼にも息子がいたんです。闇の病みが流行った当初に亡くなってしまいました。出納の仕事は随分昔に息子に代わっていたようだから最近のことは書かれていないかもしれません。病気が流行ってから村が赤字であることは誰もが知っていることですしね」

 

 俺はペラペラとめくって中身をみる。

 この村は外から買ってきた加工品を欲しい人の所に届けるその手数料を利益として生計をたてているとテッドは言っていた。

 だから売上となる手数料の増減を年単位で追っていった。


 ……、これは。


「あの、いつから闇の病みは流行っているんですか?」


 俺はテッドの父親に聞いた。


「2年前ぐらいですかね……どうしてですか?」


 おかしいな。

 さっき、テッドの父親は『村の赤字は病気が流行ってから』と言っていたが……少なくともこのノートに書かれている4年ほど前からずっと赤字じゃないか……。が、俺はテッドの黙った様子を思い出して顔に出さないようにした。


「病気が流行ってから、という話を聞いたから、いつからなんだろうかと思っただけ、ですよ」


 俺はその後、購入した商品の数も数えた。

 途中で商品が極端に減っている。どういうことだ?

 売っていないのに、なぜ商品は減っている?

 

 出納帳に書かれている何度かの修正の跡も含めて……これが表すのは……。

 まさか……ズルをして売ったことにしていた、のか?


「シュウ……何か怖い……」


 ミヅキ、今は様子を読まなくていいんだよって言いたくなった。

 テッドはこの事実を知っていたから言わなかったのだろうか?

 それにしても言わない理由ってなんだよ。それが闇の病みとどう繋がっているっていうんだよ。


 答えに一歩近づいて次の疑問が浮かび上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る