第24話 罵倒されながら話を聞くことはシンドイ、が言っている本人はもっとシンドイかもしれない

「何しにきた」


 俺とミヅキはまた闇の病みにかかっている男性の元にきた。

 彼の部屋は前と同じく暗闇で見えないが、おそらく彼はベッドの上にでもいるんだろう。


 先ほど彼の親に彼の名前を聞いた。

 テッドというらしい。


 さてどう話を切り出そうか。

 

「ロイドさんはご存じですか?」


「……お前、その名前をどこで……」


 テッドはロイドの名前に反応したので俺はカマを掛けた。

 

「ちょっと小耳に挟みました。仲良しだったんですよね?」


「……あんな奴のことなんて思い出したくもない」


「思い出したくない割にどこで聞いたか聞くんですね」


 揚げ足取りな反応で俺は相手を揺さぶった。


「……何を言ってるんだ? お前は馬鹿か?」


 馬鹿ね、ほんと何も考えてなかったらそうだよな。

 テッドは何も考えていないようで作戦にひっかかってくれる。

 

「別に馬鹿でも何でもいいです。この村を救うのにロイドさんは切り札さんですよ」

 

「なんだと……アイツ、村の仕事を全部放り出して……」


「そうですよね。ただ放り出したのには理由があるんじゃないんですか」


「理由? 幼馴染の俺に何も言わずにいなくなったアイツの理由? 笑わせんな」


 近しい存在だと思っていたが、二人は幼馴染だったのか。

 ロイドの所に行って闇の病みの手がかりを掴めなかったが、せっかく手にした情報だ。存分に使わせてもらう。

 俺は感じていた疑問を1つずつ解消しながら肝心の話まで詰めていく。

 

「女装してたんですよね? 彼。テッドさん、あなたはどういう風に接していたんですか」

 

「覚えてねぇな。随分、昔の話だ。ただな、男がいきなり女の恰好してきてみろよ。驚く以外に何があるんだよ」


 まぁ、そうだよな。

 友達がいきなり女装したらビビるよな。

 俺だったら……驚く前に、まず理由を聞くけども。

 ロイドの言い分を聞くに、テッドは驚いて少し遠ざけたのかもしれない。


「そうなんですね」


 落ち着いた様子で相槌を打ち、この先をどう切り出そうか考える。

 これ、けっこう心臓に悪いやりとりだな。

 

「だから、なんだよ? いなくなったアイツが切り札ってなんなんだよ」


 よしっ、作戦エサに食いついた。

 俺は聞きたかったことを話し出す。

 

「もしかしたら仕事嫌でいなくなったんですかね? そんなに仕事ってキツイんですか?」


「はぁ? 仕事は遊びじゃないんだから、キツくて当たり前だろ。お前働いたことないだろ? 仕事を舐めてんじゃねーぞ。働いたことないやつはコレだから……」


 おいおい、ひどい言いようだな。あーこういう人と一緒に働きたくないな。

 そもそもロイドは仕事が嫌でいなくなったわけじゃないし。

 俺は目的のことを聞くための相手の言いたい放題に目をつぶることとして、思ったことを飲み込んだ。

 

「わかってなくてすみません。この村の仕事って、具体的にどういうことをするんですか?」


「お前、そんなことも知らないのか」


 知るわけないだろ。ここの村の住民でもあるまいし。

 テッドの性格なのか、病気のせいなのか、わからないが地味にシンドイ。


「知らないですね。村の外に行くとかなんとかって聞いたような……」

 

「ほんとに何も知らないんだな、しょうがねぇな。教えてやるよ。」


 テッドはいちいち癇に障る言い方をしてくるが、俺は黙って話を聞いた。 


「この村は外から買ってきた商品を欲しい人がいる場所にもっていくのが仕事。運ぶ手数料でこの村はなりたっているんだ。商品の管理は女性で村の外で売買に行くのは男性おれたちの役割」

 

 そうか、だから物を運ぶ動ける若い男性じゃないといけないわけだ。

 そしてその男性たちがこぞって病気になってこの村は壊滅的な危機に陥っているということらしい。

 俺はやっと状況を理解した。


「……その、けっこう儲けは出ていたんですか?」


 これはこの先、聞くことがなくて何気なく聞いた質問だった。

 テッドは今までずっと流暢に罵倒しながら話していた様子から急に黙りこんだ。


 どういうことだ?


「……」 


「あの……テッドさん?」


「……それがお前に関係あるか? ないだろ。ロイドは俺らを裏切った。俺はアイツを許さない」


 一人は疎外されたといい、その相手は裏切ったという。

 ボタンの掛け違いってやつだな。

 

「仕事が大変だったからかどうかはわかりませんけど、ロイドさんという方は裏切るような信用のおけない人だったんですか?」


「……アイツこそ闇の病みにかかればいい。そうだ、闇になってしまえばいいさ、原型を留めない俺が生霊のように呪ってやる」


 恐らく、この一言は闇の病みの症状だ。

 テッドに聞ける話はもうここまでか……。

 

 ミヅキは暗闇をすいすいと動いてテッドに近づいた。


「ほんとは違う、”信頼してたのにどうして”っていう声が聞こえる」


「なんだと、くそっ、お前らなんて早く死ねばいい、早くここからいなくなれ」


 ふっと瞬間、光が差し込む。

 ドサッという音がする。


「大丈夫、ミヅキ?」


「大丈夫。彼は倒れたみたい。大丈夫かわからない……悲しい感情が溢れすぎてる」


 ミヅキは見えているようで、さきほどの音はどうやら彼が倒れた音らしかった。

 それにしても彼はなぜ「儲け」の話で人が変わったように反応したんだろうか。

 彼が黙ること……それは前回、聞いたときにも答えてくれなかった闇の病みにかかる原因の話に関わっている?


 少しずつ気が付かないうちに俺たちはこの村の闇の病みの原因に近づいていっていた。

 俺は全く気が付かなかった。そう思っていたら人に目立つような行動を避けていたのに。

 あの中に皆を闇の病みを広めている暗闇が混じっていたことに全然気が付かなったことを俺は後悔した。

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